青柳いづみこ氏の「ドビュッシーとの散歩」はめちゃ面白い!オススメの本
2018年は、フランスを代表する作曲家クロード・ドビュッシーの没後100年。
ドビュッシーの作品が取り上げられる演奏会やイベントも多く開催されました。ドビュッシーに関係する書籍や楽譜もいろいろ出版されたでしょう。
さてこの本は2012年に出版されたものなので、既に読まれた方も多いと思います。私はこの本の存在は知っていたものの、ようやく出会えたのですが、面白くて一気に読んでしまいました。
青柳いづみこ先生の笑顔が浮かんでくるような、きっとこんな風にお話されるんだろうなと想像できるような、軽妙で快活な文章です。青柳先生のお人柄が現れているのでしょうね。
さて、そんな青柳いづみこ先生のご著書「ドビュッシーとの散歩」を読んで感じたことを書いておきます。
Contents
ドビュッシーは髪フェチだった!?
いきなりすごいエピソードに、ドビュッシーのイメージがグラグラと崩れる音が聞こえそうでした(笑)。
サンソン・フランソワの先生として知られるイヴォンヌ・ルフェビュールがドビュッシーの前でピアノを弾いた時のこと。
巨匠の作品をドキドキしながら弾き終えたイヴォンヌがおそるおそる感想を伺うとドビュッシー先生、夢から覚めたようなおぼろげな表情で「ごめんあさい、あなたの髪があまりに美しくてピアノを聴いていませんでした」と告白。
ぎょぎょっ!@@あぁ、亜麻色の髪の乙女のイメージが…(笑)
沈める寺
ドビュッシーの前奏曲集第1巻に収録されている「沈める寺」は、ルナン著の「幼児期と少年期の思い出」という本にあるブルターニュに伝わるケルト民族の神秘的な伝説に基づいているそう。
ドビュッシーはカテドラル(大聖堂)を意識していたそうです。そのため、どの小節も様々な様式による協会のアーチを描いているそう。イスの町のカテドラルは、他の人々へのみせしめのために時々、海の上に浮かび上がるという伝説から表現されているものを、この「沈める寺」で感じることが出来ます。
この曲はドビュッシー自身が初演。ドビュッシーは大きくてよく広がる手を持っていて、和音を掴むのが得意だったそう。
「沈める寺」はドビュッシーが録音したCDも出ています。
こちら日本のアマゾンのページでは詳細はありませんが、アメリカ・アマゾンのページでは、10枚組CDの3枚目にドビュッシーの演奏で「沈める寺」他、「グラドゥス・アド・パルナッスム博士」「小さな羊飼い」「ゴリウォーグのケークウォーク」「グラナダの夕べ」「レントより遅く」「デルフィの舞姫」「野を渡る風」「パックの踊り」「ミンストレル」が収録されていますよ。
今の時代に作曲家の自演が残されているなら、聴かないなんて勿体無いですよね。作曲家自身が感じていたことに触れられるなんて素敵なことです。
ミンストレル
こちらもドビュッシーの「前奏曲集第1巻」に収録されている「ミンストレル」。いきなり笑ってしまったのが「ミンストレル」を「吟遊詩人」と訳しているCDに対しての青柳先生のお言葉「冗談じゃねーよー」です(笑)。快活ですねぇ。面白いのでまだ読んでいない方は是非読んでみて下さいね。
このドビュッシーの「ミンストレル」が何を表しているのかについても言及されています。こういう事を知っておくのと全然知らないのでは、やはりワクワクの度合いがぜんぜん違いますよ。
ちなみに
ドビュッシーのミンストレルは、アメリカの音楽演劇団「ミンストレルズ」のことなのである。ルーツは1820年台に南部の農場で発生した「ミンストレル・ショー」。
「ミンストレル」についてのお話はもっと深いので是非本書をお読み下さいね。
水の精ーオンディーヌ
「オンディーヌ」は、「水の精」が気ままに動いている様子を想像出来る面白い作品ですが、青柳先生はこんな風に書いています。
のっけから、何調だかよくわからない音の固まりが出てきて、右手と左手がひんぱんに交替し、するどいアルペジオではじけたかと思うと、これまた調性不明のカデンツァ風のパッセージになり、やっとニ長調の基音に落ち着くものの、メロディはレーミーファ#ーソーラの長音階ではなく、レーミーファ#ーソ#ーラのリディア旋法で歌われる。
オンディーヌのイメージの源になったのは、アーサー・ラッカムというイギリスのイラストレーターの絵本「ウンディーネ」なのだそう。
ウンディーネには原作があって、それはロマン派の作家ド・ラ・モット・フケーの水の精にまつわる物語とのこと。そもそも、ドビュッシーの愛娘シュシュがラッカムのイラストが大好きだったのだそう。
ウンディーネのお話も、本書には詳しく書かれています。
ちなみに「水の精」を表す音楽には他に、同じフランスの作曲家ラヴェルの作品にも「オンディーヌ」がありますね。フランス語で「オンディーヌ」ですが、ドイツ語では「ウンディーネ」と言うのだそうで、いずれもラテン語の「波」を表す「ウンダ」が語源とのこと。
人間と水の精との結婚の話についても書かれていて興味深い。ちょっと「人魚姫」を思い出してしまいました。
月の光
ドビュッシーのピアノ曲と言えば「月の光」と言うくらい、一番有名な作品ではないでしょうか?「ベルガマスク組曲」の第3曲として収録されています。
フランスの象徴派の詩人ヴェルレーヌの「月の光」が元になったと言われています。ヴェルレーヌの「月の光」はこちら。
お前の心はけざやかな景色のようだ、そこに
見慣れぬ仮面(マスク)して仮装舞踏(ベルガマスク)のかえるさを、
歌いさざめいて人ら行くけれど
彼らの心とてさして陽気ではないらしい
イタリア喜劇の役者さんには、ベルガモ地方の出身者が多かったそうです。それは、ベルガモの方言というのでしょうか、なまりがひどくて、彼らはただしゃべるだけで笑いが取れたのだそうですよ。
「ベルガモの」という意味を持つ「ベルガマスク」と「仮面」のフランス語「マスク」をかけ合わせて韻を踏んだのが、ヴェルレーヌの「月の光」だと青柳先生は書いています。
5本指のための
ドビュッシーはチェルニー嫌いだったそう。何だか微笑ましいというのか、「わかるわかる!」と頷いている人も多そう。かの作曲家ドビュッシーもチェルニーが嫌いだったと聞いて、実際親近感を持ってしまいましたよ。
ドビュッシーがピアノの手ほどきを受けたのは、ショパンの弟子だったと言われる上流階級の婦人だったそう。それ故、ドビュッシーはショパン特有のピアノ理論を学んだと言われています(けれど、定かではない)。
ドビュッシーの「5本指のための」という練習曲にも、ショパンが考案した音型が中間部に出現。ハ長調なのに、曲の終わりは変ニ長調で書かれた快速の音階で締めくくられています。
金色の魚
「金色の魚」とは「映像第2集」の第3曲「金色の魚」のこと。これも理解が間違えられやすいので、書いておく必要があるかもしれません。「金色の魚」とは決して「金魚」の事ではないということを。
ドビュッシーは、浮世絵に目がなかったというのも知られている事だと思います。
ドビュッシーの「金色の魚」とは、「緋鯉」のこと。「金色の魚」は3拍子で緋鯉たちは西洋風にとびはね、空中浮遊しトンボ返りして着地する。
面白いのは青柳先生。
この曲を生徒が弾いているのを聴くと、鯉ではなくクジラがバタバタしているような印象を受けることがある。ざわざわした水の感じをあらわす右手と左手のトレモロがうるさいからだろう。
こういう時は、指先をうんと固くして、鍵盤に触るか触らないかぐらいの軽いタッチで弾くとちょうどいい。
時々このように青柳先生が「弾き方のコツ」を交えてお話して下さっているのも嬉しい。
ドビュッシーのイギリス趣味
フランス人が英語を話せないのではなく、彼らはイギリスが嫌いだから英語を話さない、というような話を聞いたことはありませんか?
この事をドビュッシーもそうだったのでは?と説く青柳先生の解説がまた面白い。
なんと行っても世界に先駆けて王様の首をチョン切った国と、いまだに王政を続けている国とでは、権威に対する考え方も違うだろう。
「パックの踊り」のイメージになった「真夏の夜の夢」には、イタズラ好きの小妖精パックが、妖精の王様や女王様を散々な目にあわせるというエピソードがあるが、ドビュッシーの音楽では権威好きなイギリスのイメージを「儀式張った堅苦しい」ファンファーレに象徴させている。
「水の反映」はドビュッシーの自信作だった!
「水の反映」は「映像第1集」の第1曲。これはドビュッシーの自信作だったよう。
ドビュッシーは出版者のデュランに「ピアノ作品の中で、シューマンの左にかショパンの右にかお気に召すまま、しかるべき位置を占めることになるだろうと思います」と宛てているそう。
コルトーの逸話
最後にコルトーのエピソードが可笑しかったので紹介しましょう。
1918年にドビュッシーが亡くなった後、コルトーはドビュッシーの愛娘シュシュの前で「子供の領分」を弾いている。
どうだい?お父さん(ドビュッシー)と同じくらい上手だろう? と聞いたトコロ、シュシュはこう答えたという。
「たぶんね。でもパパはもっと自分の音をよく聴いていたわ」
最高です!光景が浮かぶよう。「あんたのパパよりうまいだろう~!」と得意げになるコルトーも大人げないと思いますが(笑)。そうやっていい気になってたであろうコルトーに対して、「もっと自分の音をよく聴けよ」と暗に諭したシュシュは、さすがドビュッシーの愛娘といったところか。
青柳いづみこ「ドビュッシーとの散歩」はこちら
面白すぎる青柳いづみこ氏の「ドビュッシーとの散歩」、お読みの方も多いでしょうがまだの方は是非!オススメします。
この本を読んだら、あなたもすっかり青柳先生のファンになりますよ。そしてドビュッシーをもっと弾きたくなるでしょう。
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