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ピアノの魔術師とも言われる作曲家のフランツ・リストさま。
その容貌から、たくさんの貴婦人方を虜にした、リストのリサイタルは現在のアイドルのコンサートのごとく、ご婦人方のキャーキャー言う声で埋め尽くされ、失神する人まで居たとかなんとか。

ご婦人方に熱狂されていた作曲家フランツ・リスト様
そんなリスト様の作品は、愛にあふれるものから技術見せびらかし系のハードなものから宗教音楽など、多岐にわたります。
いずれにしても、リスト様の作品を弾くのはなかなか難しいもの。技術的に難易度の高いものは、その音楽を聴けば、また演奏姿を見るだに楽譜を見るだけでも「難しい曲なんだね」ってわかりますよね。
でも、音楽を聴いた感じでは難しさを感じない作品でも、なかなか一筋縄ではいかないものばかり。その代表としては「愛の夢」「コンソレーション」などがありますね。
今日は同じように「そんなに難しそうに聴こえない」けれど、実際は結構たいへんです!な「泉のほとりで」を取り上げて、より美しく仕上げて弾くための練習のポイントをお伝えします。
Contents
リストの「泉のほとりで」って?
フランツ・リストさま(1811-1886)作曲の「泉のほとりで」とは、「巡礼の年」”第1年:スイス”(S.160)に収録されている第4曲です。
「巡礼の年」は”第1年:スイス”、”第2年:イタリア”、”ヴェネツィアとナポリ:第2年補遺”と”第3年”の4集から成っているもの。
「巡礼の年」”第1年:スイス”は、以下の9曲から成っています。
- ウィリアム・テルの聖堂
- ヴァレンシュタットの湖で
- パストラール
- 泉のほとりで
- 嵐
- オーベルマンの谷
- 牧歌
- 郷愁
- ジュネーブの鐘
この9曲の中では、第4曲の「泉のほとりで」が演奏される機会が多いようですね。
さて、この「巡礼の年」”第1年:スイス”は、リストが1835-36年にマリー・ダグー伯爵夫人と一緒に訪れたスイスの印象を音楽に表した作品が集められた曲集。
第4曲「泉のほとりで」には、シラーの詩の一節「ささやくような冷たさの中で、若々しい自然の戯れが始まる」と書かれています。
水の曲であることを忘れない

リスト「泉のほとりで」冒頭
このリストさまの「泉のほとりで」は、水に関する曲だということはタイトルからも一目瞭然ですね。
もしもあなたが同じリストの「エステ荘の噴水」や、ラヴェルの「水の戯れ」を勉強した事があるなら、その水を表す感覚を思い出してみましょう。
さて、右手の16分音符は水がさわさわと流れている動き。
左手の跳躍は、水が ポチャン ポチャン と跳ねている音。
右手の16分音符は限りなく軽く。拍頭の4分音符と重なる音を打鍵したら手首を回す。
続く内声の16分音符は各指をイチイチ上げて降ろしての打鍵はしない。ただ指先が鍵盤に触れるだけ。
ここの弾き方の練習は、拍頭の重音を押さえたまま、内声をノン・レガートで弾くのがポイントです。
そしてもう一つ大事なのは、右手の16分音符6つを
「123 123」と捉えて弾く事。ただし、聴き手にその拍のとらえ方が伝わるように弾いてはいけないので気をつけてね。
始めの「123」で息を吸って行きましょう。この時、肩が上がる吸い方はダメ。肩ではなく、胸や腹がふくらんで上がって行くような吸い方です。
そして次の「123」で息を吐いて行く。
次に左手。
左手は跳躍だけど、それぞれの音が切り離されるのではなく、つながりを持つ。とは言っても、実際には音が離れているので、つなげて弾くのは難しいですよね。
じゃあ、どうすればいいのか?
手首を使ってみましょう。でもね、手首のスナップを使うのは、打鍵の後。打鍵の前じゃないからね!
打鍵そのものは指先の腹の部分だけ。そして直後に第3関節ではなく、手首のスナップを使って移動していくのです。
指使いや呼吸を考える

リスト「泉のほとりで」冒頭
「泉のほとりで」の出だしは「dolce」です。エスプレシーヴォではないので、気をつけましょうね。
右手をもう一度見ていきますよ。
右手はソプラノの4分音符のラインを聴かせます。この時、内声が飛び出ないようにするには、背筋をリラックスさせること。あのね,水泳のレッスンでさチビッコが、お腹回りに浮き輪みたいなの付けられて、ぷかぷか浮いてるような感じを想像してみて。
親指を手前ではなく、向こう側へ出して手指の動きを小さくしてみましょう。
あなたの親指を手前に引っ張る必要はないんです。あなたの親指は短いけれど、実は向こう側へいくらでも、びにょ〜んと伸びるんだ!と想像してね。そのように強く思い込んで弾いてみましょう。
そして内声ラインはスタッカート打鍵の練習をするのが効果的です。ただし、指先を鍵盤から離さないスタッカートで。(元気のよいスタッカートではない)
そして注意したい内声、「られみそれみ」というように、音が飛び出ないように。もしこのように音が飛び出るとしたら、それは指使いが悪いの。もしあなたが弾いていて、音が飛び出ちゃうとしたら、「412312」という指使いで弾いていないかしら?もしそうなら、
「412412」にすることをオススメします。何故なら、3の指は強過ぎるからね。
次に、各拍の16分音符の最後の音(主にミ♭)が飛び出ないように。
コツは、ちゃんとあなたの耳で聴くこと。
「らー|しーみっみみっ」って聴こえてしまうのは、あまり良くないです。聴かせたいのはソプラノの歌、「ら しーーどーーしーー|どーー」ですよ。
その横への動きのラインに、左手の跳躍の8分音符は後打ちの高音へ飛んだ方の音。つまり、聴こえ方としては「ら しーみっどーらっしーみっ|どーらっ」ですが、それらも混ざらないようにしたいところ。
左手の高音へ飛んだ音は、水がポチャン!となる音だから、全くの別物だということを忘れないで。
そして、左手の高音へ飛んだ8分音符の「ポチャン♪」を聴いて(うけて)ソプラノは次の音を発する。
つまり、そこには「間(ま)」が発生するの。それを消化するため・飲込むための間が。
ココね、左手が高音へ跳躍して打鍵する所から、次拍でソプラノが出るまでの間で息を吸う!のがポイントです。そしてそれを「聴く」こと。
それなのに、その間に内声の16分音符「ミ♭」が邪魔してくるとしたら?よく考えたら、ありえない事ですよね。

リスト「泉のほとりで」2小節目
右手はソプラノが「ラ♭」で、重なる内声が「ソ」の所です。
ここは難しいけれども、【より聴かせるのは「ラ♭」】ね、「ソ」ではなく。この二音打鍵の際の二指のバランスに気をつけましょう。

リスト「泉のほとりで」冒頭からの4小節
1段目の終わりと2段目の終わりでは、展開が変わってきますよ。それを十分に感じて表してみましょう。
16分音符6つのとらえ方・練習法

リスト「泉のほとりで」10小節目〜
この10小節目からのフレーズでは、右手は16分音符三つずつで「飛ばない!」よう注意。
「どらし」(指使い423、ただし、始めの「ど」は和音で「ら」を1の指で弾いています)、この「どらし」の「し」を打鍵すると同時に、4の(次の音を打鍵する4の)指の用意は、5の指が誘導する事を意識してみましょう。
そして、「し=3」の打鍵時に、すばやく1の指は次の音に向かって指くぐりをする。
次に左手。左手はね、2 in 1 の練習をしてみましょう。「2 in 1 」=2音ずつでとらえること。
「れふぁ」「らふぁ」「らし」「らど」「れど」「みふぁ」・・・とね。
このように2音ずつでとらえる練習をすることによって、16分音符三つずつで途切れてしまうアンバランスさが解消されますよ。
トレモロのとらえ方

リスト「泉のほとりで」12小節目
「泉のほとりで」12小節目は、楽譜に書かれている通りにとって弾くのをやめてみましょう。じゃ、どうやって弾くかと言うとね...
- トレモロの一音目を右手で和音でとる
- 二音目を左手で和音でとる
- そして交互に弾く
こうやって弾くとラクですよ。聴いている方にも、ツライ音に聴こえないからね。
第1変奏は、ジェントルに

リスト「泉のほとりで」13小節目
13小節目から、第1変奏に入ります。この第1変奏も、主題と同じようにとらえてみましょう。
主題ではソプラノが4分音符でした(ココでは8分音符)。そのラインを、この第1変奏でも同じように歌う。
内声の16分音符の受け渡しに十分に気をつけて。まるで片手で弾いているように聴かせることを意識してね。決して「この音から左手に変わりましたー!」と知らせないように。
それから右手のオクターブ・アルペジオはね、そっけなく「ポチャン!」と弾かない。ココは「ジェントルに」。やさしく弾くのがポイントですよ。
和音アルペジオのポイント

リスト「泉のほとりで」17小節目
ここからホ長調(E Major)に転調します。「tranquillo(静かに、落ち着いて)」の指示を見逃さないようにね。
そしてここでは右手の2拍目に注目しましょう。内声の8分音符「そーふぁ」にスラーが付いています。その後、飛んで高音で和音アルペジオ。
ここでの注意ポイントは、「そーふぁ」の「ふぁ」でジャンプしない事。「そーふぁ」と、その後の和音アルペジオは別物ですよ。だから、ちゃんと分けましょう。
「そーふぁ」だけで、きちんと「終わること」。つまり、「そーふぁ」の「ふぁ」打鍵で手首を上げないのがコツ。ちゃんと落とすんですよ。きちんと落として、きちんと終わらすこと。それから和音アルペジオに入ります。
この「そーふぁ」もその後の和音アルペジオも、どちらも同じ右手で弾くのですが、練習では手を分けて弾いてみましょう。そしたら、より明確になるからね。
ベースの動きも大事に

リスト「泉のほとりで」21小節目
ココ、右手と左手内声でいっぱいになって終わらないようにね。右手は上に書いてきたとおりですが、こんなフレーズでは左手にも注目しましょう。
ここで大事なのは左手のベースラインですよ。
左手も二声のように、8分音符と16分音符の動きは分けて書かれていますよね。こんな所では、16分音符の動きはハーモニー・響きを、そして8分音符のベースの動きを味わいましょう。
細かい動きのフレーズの弾き方・とらえ方のポイント

リスト「泉のほとりで」23小節目〜
さぁ、リスト作品に欠かせない、細かい動きのフレーズですよ。
こんな動きのところでは、右手の音の中で高い音を聴かせること。
高い音を聴かせるとは言っても、「らしそみ」「そらふぁれ」「みふぁれし」を、
「らしそみ」「そらふぁれ」「みふぁれし」とは弾かないで。
このフレーズのとらえ方は、「らしそ・」「そらふぁ・」「みふぁれ・」です。つまり「らしそみ」の「そ」で終わる。
「らしそ・」「そらふぁ・」「みふぁれ・」と「・・・み」「・・・れ」「・・・し」を、別の声部の動きとして考えられると良いですよ。
取り方のちょっとしたコツ

リスト「泉のほとりで」28小節目
第3拍の右手パートに書かれている16分音符二つ目の(ト音記号第一線の)「ミ」は、左手で取ってみましょう。ちょっとしたコツです。
楽譜に書かれている通りに右手だけで弾くより、ラクよ。だって左手は近いところで和音を弾いているもの。
試してみてね。

リスト「泉のほとりで」33小節目
33小節目の右手(16分音符の内声)は、「323212」という指使いの指示があります。(※ 版によって違うかもしれません)
ここは、「321212」という指使いで弾いてみましょう。その方が、非常にレガートで弾きやすいから。
静かに弾くコツ

リスト「泉のほとりで」33小節目
ここはね、大きな動きがあるわけではないのだけど、つい五月蝿くなりがち。でも「ピアノ(p)」よね。
こんなフレーズを静かに弾くには、左手の指は鍵盤から離さず打鍵する事を意識しましょう。背筋をリラックスさせてね。
左手はとにかく「静かに」。鍵盤の底までしっかり打鍵しようと思わないことですよ。そよそよと水面をかくようにね。

リスト「泉のほとりで」33小節目〜
1回目と2回目での響きの違いを感じ、出すていきましょうね。そのためには、1回めと2回目のフレーズの違いを、あなた自身が何か感じる必要があります。
何かを感じるまで、とことん音や響きを味わってみましょう。
重音と単音が交互の動きで気をつけること

リスト「泉のほとりで」38小節目
右手も左手も、16分音符はジグザグの動きをしていますね。でも右手の内声には8分音符の半音階があります。その8分音符の音が入るところが重音として響きが出るところ。
この重音となる所で「だん!だん!だん!」と落ちるように弾かないよう気をつけましょう。
ここでは、重音の次の16分音符から次の重音へ向かう!というとらえ方をする事が大事ですよ。なぜなら。
重音から次の16分音符では、音は半音ですが下降します。でもね、16分音符単音から次の重音へは、音は上がっていきますよ。この上がっていくラインをとらえる方が大事なの。ジグザグの動きをしているけれど、フレーズ全体では音が上がっていくからね。
そういうところを見ていきましょうね。
和音の打鍵に気をつけよう

リスト「泉のほとりで」41小節目
ココも、左手の和音が突然飛び出さないように気をつけましょう。
この和音は突然やってくるわけじゃありません。あくまでも、その前に右手で弾いている内声のライン上にあるのです。その繋がりが感じましょうね。
左手でとる内声の和音の打鍵は「置いてしまわないこと」。置いてしまう打鍵にするとね、音が落っこちて終わっちゃうの。その逆でね、音を上へ飛ばしましょう。ただし、超スタッカートで飛ぶというのではありません。やわらかくね。

リスト「泉のほとりで」46小節目
46小節目は左手の同音和音が連打ですねぇ。この同音和音は、全てを同じ打鍵にしないように気をつけましょう。なぜなら、音は同じでも、それぞれに「どこへ向かっていくのか?」という意味・意思が違うから。
この同音連打は、どこに向かって行くのか?をいつも考えましょう。
ここでは次の拍頭に向かっていくので、そのような弾き方をすること。
同音和音は、それぞの打鍵一つ一つの意味、ニュアンスが変わる事を意識するのがポイント!

リスト「泉のほとりで」51小節目
ココも、さっきと同じです。
8分音符二音にかかるスラー(内声)の二音目は、きっちり「終わる」こと。そうして右手の高音でのアルペジオは非常に「やわらかく」。
左手の低音オクターブを響かせて味わうことも忘れないでね。

リスト「泉のほとりで」63小節目
コーダです。
ここは右手の細かな動きに気を取られるでしょう。右手をキレイに弾くのはもちろんですが、左手の和音を、ただ当てはめるように弾かないでね。
左手の和音は、打鍵と同時に腕をふわっと上げて行きましょう。
ピアノ動画*リスト「泉のほとりで」
ティブレイクは、リスト様の「泉のほとりで」。
これは2014年の香港のサロン・コンサートで弾いたもの。
香港シティ・ホールのリサイタル・ホールで、ピアノはベーゼンドルファーでした。
こちらの記事もご参考までに。
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