ショパン「スケルツォ第1番」を仕上げるための10の練習ポイント
ピアノの詩人と呼ばれるポーランド出身の作曲家でピアニストのフレデリック・ショパン(1810-1849)。
ショパンはピアノのためのたくさんの作品を生み出しました。

ショパンは、ワルツ・マズルカ・即興曲・バラード・スケルツォ・ノクターン・ソナタ・エチュード・協奏曲他をピアノのために作曲しました。
今も多くのピアノ弾きが、ショパンの作品に恋焦がれて練習していますよね。
今日はそんなショパンの作品から、1833年に作曲されたスケルツォ第1番Op.20を仕上げていく上での練習のポイントをお伝えします!
Contents
大きなつながりを理解する

画像の一段目、この三つの赤○の重音はつながっています。
一個ずつ別個にならないように、意識と呼吸に気をつけましょう。
最初の重音の緊張感を保ったまま、絶対に緩めないで次の音へ行きます。
次の音打鍵に移る時に、「てのひらの筋肉」が瞬間的に緩みがちなので注意。
一段目、三つ目の赤○=左手で取る「ミ♯とレ和音」から始まるフレーズは、「てのひら筋」を緊張させて指は鍵盤を突き刺すように弾いてみましょう。
でもね、刺しっぱなしにしないで、打鍵で刺しこんだら瞬時に抜くことも忘れないでね。
この左手の三つの音「ミ#ファシ」でスラーが付いていますが、スタッカートのような打鍵をしてみましょう。
このフレーズはテンポが速いので、スタッカート打鍵をしても聴いてる感じではスタッカートには聴こえません。
じゃあどうしてスタッカート打鍵をするのか?
それはね、緊張感と激しさが増すからです。
画像二段目、右手は青○の音は、上の左手突き刺しの音と同じ。
右手の打鍵後ふわっと上げず、突き刺して瞬時に抜きましょう。
そしてその前の小節の左手、1&2拍目の4分音符は二つ目が弱くならないように。
ここは、ペダルも踏みましょう。
1拍目で踏んで2拍目で踏み変えてその小節の残りはハーフペダル。
次の小節、右手突き刺しの音のところはアクセント・ペダルで。
この画像の始めの段の最後の左手の出だし=一回目のテーマの出だしは、静かめでも十分に伝わります。
ただし二回目はもっと強調しないと、その前のフレーズの音にかき消されて、始まりの印象が薄くなるので注意しましょう。
苦しさ・痛さを表す

全体的に、そんなに速くなくていいの。
この曲はめっちゃ速い!という思い込みは、とりえあず横に置いておきましょうか。
苦しさ、痛さは、こんなところに表現されています。
あなたは、この冒頭のセクション・メロディは、どのように流れているととらえていますか?
考えてみてくださいね。
上の画像の、左手8分音符の一つ目の和音とその次の単音は、セットです。
この音の移り変わりを、十分に味わって感じましょう。
これと同じパターンは沢山出てきますね。
みな、同じようにあなたが感じてみることが大事。
これを味わうためには、速く必要はないのです。
カタマリを意識する

続く右手のフレーズ。
これを1拍ずつ、または一つおきに強調しないよう気をつけて。
ここは出だしから、「8分音符四つずつの塊」で進んでいきましょう。
右手は4音で1つという事を、強く意識してくださいね。
さて左手も問題が。
この左手4分音符のスタッカートは、軽やかに弾かない。
エネルギーは増大していきますよ。
それを助けるようにペダルは、踏みっぱなしで。
なぜなら、コード(ハーモニー)は同じだからですよ。
ショパンのルバートとは
ショパンのルバートは、「1.2.3.」のテンポは揺るぎません。
(各小節のテンポに大きな変わりはない、という意味です)
ただ、各小節内で、1拍目が気持ち長めだったり、それが2拍目だったり3拍目だったりする、というだけのこと。
ショパンは、1小節単位でとらえないように気をつけてね。
大きなフレーズで呼吸することを意識しましょう。
例えばここ。

右手と左手、ユニゾンのフレーズがあるの、わかりますか?
出だしの「ふぁーそ」がユニゾン。そして1拍目が4分音符であるという点が共通点。
このフレーズも何回も出てきますが、いつも同じように弾かないで、
- ある時は この1拍目を強調して長めに
- ある時は、そこをさらりと
- ある時は、2拍目の冒頭に意識を置いてみる
全て、弾き方を変えて「痛さの度合い」を変えてみましょう。

このフレーズは、左手の3拍目から次小節の1拍目へとつながっている重音の流れを、よ~く感じて弾くといいですよ。

ココはテンポにとらわれずに、本当に自由に、あなたが思うままに弾いてみましょう。
あなたの「ソロ」に当たる部分だと思って良いですよ。
同じようで違うフレーズを考える

すぐ後のこのフレーズでは、左手1拍目の強調に続いて2拍目右手も強調しましょう。
そうすることで、この前のフレーズとの違いを表わす事ができます。

このフレーズは続けて二回、そして、それがこの曲中何回も出てきますね。
二回目の表現が、全てのセクションで同じにならないよう、考えてみましょう。
同じようなフレーズが繰り返される時は、どんな表現でもいいけれど、何かを変えて弾くこと。例えば・・・
- 1回目は左手一拍目だけを強調
- 2回目は左手を強調せずに右手の出だしだけを強調
- 3回目は、左手の最後の音と右手の出だしと両方強調
というようにね。
フレーズの終わりなのか?次へ向かっていくのか?

ココは、赤○の音を弾いたらそこでフレーズ終わりではありません。
次に向かっていくのです。
その解釈を間違えると、休符のところでどっぷり終わって沈んじゃうので注意。
そこの赤○の音を打鍵したら、両手共に飛び上がる。
そして、瞬時に両手はグーの手にして。そしてそのまま次の音に向かって(青ライン矢印)エネルギーがぶつかっていきますよ。
このフレーズ、左手は軽く弾かないように。ここで盛り上げを作っていきましょう。

ここのffの三つの4分音符は、緩めないで一気にいきましょう。
アクセント・ペダルを踏んでね。

左のこのライン(そそどー)を、強調しましょう(聴きましょう)。

ここは赤○の音を強調(意識します)。
特に右手の赤○はテヌート気味でね。

このフレーズは右手の最後の音(赤○の音)を強調テヌートで聴きましょう。
ペダルも長めに踏んでね。
中間部はどこから始まるのか?

ここから中間部が始まると思っていませんか?
実は、

中間部は、直前の、セクションAの最後のコードを十分に感じて。
それを感じながら、セクションB(中間部)の最初のコードに入ります。
中間部の表現法

中間部の表現法で注意すること。
1小節単位にならないように。
メロディは外声ではなく内声にありますね。
フレーズのとらえ方が短すぎないように。
8小節で一つのフレーズです。
最初の4小節はルバートなしに弾いてみましょうか。
ルバートをかける(テヌート気味で弾く)のは5小節目から。
中間部のここのメロディ・ラインは右手の内声にあたるところ。
でも、あなたの右手1の指の打鍵の仕方がその時で違ってしまうと、メロディ・ラインの音が緩んでしまったり。
だから、親指に意識を集中しましょう。
1の指の緊張状態は常に同じに保ってね。
ここは、ゆったりと。
この前のセクションのテンポ指示は1小節単位。
でもここからは1拍単位になっています。
だから、もっとゆっくりでいい。
「もっと大事に」を、いつも心に置いて。
さて、あなたにはこのセクションは、どんな絵(映像)が浮かぶかしら?
私の場合をお話しますね。
私は森の中を一人で歩いています。
空気がきれいで、とても気持ちいい!
穏やかで幸せで温かい気持ち。あぁ、気持ちいいなぁ…と思って歩いていると、
森が開けてきて、陽の光が差し込んできて
パァッと明るくなるの。
そして、もっともっと、幸せに満ちてくる。ところが突然、雷が鳴る。
空が真っ暗になって怯えてしまう。
次に、2005年に香港で受講した夏期講習でのヘレン・ウォン先生の絵(映像)もお伝えします。
伺った時、あまりにおかしかったので、強烈に覚えているの。
私は彼のことを想って幸せなの。
あぁ、私は彼が好き!彼も私を好き!とっても幸せ…そしたら手紙が来たの。あぁ、彼からだわ!って、
もっと気持ちが高揚してくるの。ところが、封を切ってみたら、それは第二の女からだった。
ガーン…突き落とされる。なぜ?なぜなの?でも私は彼を想っている…
だから私はまだ幸せ…ね、彼も私を想ってくれているのよね。
私は幸せに浸っていていいのよね…うそっ!うそっうそうそっ!
私じゃなくてあの女を取るの?いやよいやよ
いやよぉおおおっ!
先生の絵の方が、リアリティありますよね。
恋愛話にしちゃったら臨場感増しますって(笑)。
さぁ、あなたも「あなたの絵(映像・お話)」を描いてみましょうね。
内声の音の変化を感じよう

中間部の第二テーマね、二回出てきます。
ここでは、一回は上声を意識、もう一回は内声の音の変化を意識するといいでしょう。
もちろん、その逆でも良いかもしれませんよ。

中間部、続く二つ目のテーマです。
この次のテーマに入る赤○のところ、ここに入る直前、気持ちフェルマータを入れてみましょう。
そしてココからのバスの青○のラインはテヌート気味にね。
コーダ

ココ(シド&レド)の左手はどちらも「1と2」の指で、弾きましょう。
その時の指の形は、1の指チョッパーで!つまり、1の指(親指)の側面を使って打鍵してみましょう。

コーダですが、ココで初めて「fff」が出てきます。
初登場ですよ。それだけのパワー(エネルギー)を出し切る!くらいの気持ちで弾きましょう。
ただし、鍵盤を必死で叩くわけではありませんので、出てくる音(音質)に気をつけましょうね。

1拍目から2拍目への間は、あけすぎないように。
タイミングを図るのは必要ですが、間を取りすぎると勢いが止まってしまいますよ。

コーダの続きの左手、半音階フレーズに入る直前です。
ココに至るまでの左手4分音符は、淡々と弾かない。
cresc.で盛り上げる。
この赤○の音は「チョッパー」で弾いてみましょう。
打鍵瞬時にチョッパーの形にして。
そしてココから続く半音階フレーズは、各小節にペダルを入れましょう。
始めはアクセント・ペダル。
段階を経てペダルを踏むのを長くして、
半音階フレーズの最後では、1小節丸々ペダル踏んでる感じに持っていく。

コーダの半音階のフレーズ。
ここには強調したい「ランドマークとなる音」があります。
各小節の第一音にアクセントが付いていますよね。
それは「シ」と「ミ♯」の二つだけで繰り返しになっています。
これらの音に意識を置きましょう。

さぁ、カデンツです。でもね、ただのカデンツではありません。
ロ短調のII7度からⅠ度へのカデンツ。
それを強く意識して、青ラインの進行は気持ちを入れましょう。
赤(オレンジ)ラインの進行は、左手重音の中の音「ソーファー」という動きを強く意識して。

そしてこれが二回目の「fff」、最後の「fff」ですよ。
「fff」がこの曲で何回、どこに出てくるのかを理解しておかないと大変!
最後へのエネルギーの持っていき方が変わってしまうので、気をつけましょう。
いつも、和音の意味・方向性を考えて意識して弾くのがポイントです。
ただ弾くだけなら、そう難しい曲ではありません。
指だけ回れば弾けます。難しいのは、そこから先ですよ。
曲が頭に入ったらやるべき事は、音を追求する事
暗譜してて構造は頭に入っているなら、次にやることは「音の追求」。
この曲は同じセクションが何度も出てきます。
これは全部、表現を変えましょう。
ショパンのスケルツォは「痛み」の表れです。
あ、つねられたり、ぶたれたりして感じる痛みじゃなくて、心をねじふせられるような痛みね。
しかもこの第1番が、ショパンの4曲のスケルツォの中で一番痛みが大きいの。
ショパンのスケルツォは、「4番→3番→2番→1番」という順番で、痛みが増していきます。
だから、「4→3→2→1」という順番で練習する人も少なくありません。
大事にしたいこと
「sf」や「アクセント」を強調しすぎないように。
「強調」とは、強く弾くという意味だと思わないほうがいいでしょう。
どちらかと言えば「大事にしてあげる音」。
それぞれのフレーズの中のコード進行を味わって。
全ての小節をコードにして弾いてみましょう。
そして、とてもゆっくりで、右手のフレーズと左手の和音進行の響きを感じながら弾く練習をすること。
その後にイン・テンポで。
クレイジーな演奏にならないように、あなたが出す音をよく聴きながら。
もし、あなたが演奏するホールの響きがデッドで乾燥した感じなら。
リッチな音を出すために、もっと音量を出してみる(音量の幅をもっと広げてみる)。
それから、ペダルももっとたくさん入れる。
今までアクセントで入れてたところは、もっと長く踏んでみましょう。
ピアノ動画*ショパン「スケルツォ第1番」
あまり参考にはならないのですが、私自身がこの曲のレッスンを受けた後に、学校の体育館という、非常に響きがデッドな空間で演奏する機会がありました。
2005年に受講した、香港サマー・ミュージック・キャンプ(いわゆる夏期講習)の修了演奏会での演奏。
あまりにデッドな響きなので、当日直前にペダリングを全部直された事を思い出します。
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