メンデルスゾーン「スコットランド・ソナタ」第1楽章練習のポイント
日本では「スコットランド・ソナタ」の名で知られているメンデルスゾーン(1809-1847)の「ファンタジー」作品28は、1833年に作曲されました。
【幻想曲 嬰ヘ短調「スコットランド風ソナタ」Op.28】と言うのが日本的正式名称。
英語では【Fantasia in F-sharp minor for piano (“Sonate écossaise")】、
ドイツ語では【Fantasie (Sonate écossaise) fis-Moll op. 28】と表記されています。

メンデルスゾーンの「ファンタジー/スコットランド・ソナタ」は、3つの楽章から成っています。今日は、その第1楽章の練習ポイントについて。あなたの演奏を仕上げるためのご参考にどうぞ!
Contents
スコットランドソナタを弾く上で大事なのは
- どこに向かっていくのか?
- 終わりと始まりを、はっきりと(聴いている人に)わからせること
- 全てのフレーズ、全ての音に、感情がある。
だから、決して考えることなしに弾いてはならない。
「Speak !」、「Sing !」
- 右手と左手、各声部は「会話」
会話とはどんなものなのか?
ただしゃべればいいというものかしら?問いかけもあれば答えもあるよね。同意もあれば反論もある。
奏でるとは、そういうことだ。
ファンタジーは、もっと自由に

はじめの左手の「ファ#」は、Deep に。
Deep な深い音を出したい時はね、腕全体を「ぶらん」とさせるように、ただその鍵盤に落すだけです。だから、使う指は何の指だっていいの。「5」の指の側面全体を使って打鍵してもいいし、もっと言えば、「グー」の手にして打鍵してもいい。
右手、32分音符のアルペジオは、均等に弾く事を意識しましょう。そして、ミステリアスに。では、どう弾いたらいいのでしょうか?
全ての打鍵は、指の第一関節(指先に一番近い関節)から先だけを使って打鍵。
第一関節から先だけを使って「消しゴム」を「つまむ」ように。その時の指先と手首の状態で打鍵しましょう。
「1.2.4」の指は打鍵する前から用意しておきます。そして、「4」の指で打鍵する時に手首を使って移動させていく。
「5」の指で打鍵する時には、「1」の指を次の音へと移動させる。その時、「1」の指の付け根=手首の内側から「1」の指の動きを助けます。
右手アルペジオは、「ふわふわと一音一音をはっきりさせない」のではなく、指をフラットにして全ての音を(鍵盤を)「掴んで」いく。全ての32分音符は「等分」に。
そして「5」の指の打鍵が、次の「1」の指の打鍵を助ける。=「5」の打鍵時に手首・ヒジを内側へ。
「1」の指の移動は指先からではなく、指の付け根から。
※ 親指の付け根は第二関節ではなく、手首になる。
上昇の移動は常に「支点」となる「3」の指が方向指示盤となります。
メンデルスゾーンとドビュッシーのアルペジオの違い

ドビュッシーのアルペジオは全てが印象的になります。しかしメンデルスゾーンのアルペジオは、もっと「メロディック」なの。アルペジオの中に、メロディがあるんですよ。
アルペジオの中で「メロディになっている音」と「そうではない音」では、打鍵の形は異なります。
例えば、右手で出しの4音に限って言うと
- メロディになっていない音=「らどふぁ」
- メロディを作っている音=(らどふぁ)の後の「ら」
メロディになっていない「らどふぁ」の打鍵は、「3」の指を支点にする。「3」の指は「2」の指に寄り添うように。
手の形は鍵盤に対して真っ直ぐではなく、ちょっと斜めで。手の甲も傾きを持つ感じで(これは文章では説伝えるのが難しいかな)。
緊張感を持つのは「てのひら」の「2と3の指の付け根の筋肉」です。
メロディを作っている音の打鍵は、手首を柔軟に使いましょう。
常に背中の方を膨らませて行くような感覚を持った呼吸をしながら、アルペジオの切り返しのところで、更に息を吸っていくよう意識して。

アルペジオの下降の最後だけはパターンが異なります。この「ふぁらそふぁ」打鍵は全ての指を「寄せて」、鍵盤に深く入っていくように。
2オクターブ・アルペジオでの指くぐりの注意事項

画像出だしの右手、指使いは「1-2-3-5」をオススメします。
「5」の指で打鍵をして「いざっ1の指をくぐらせてー!」では、遅い。
※くぐらせる「1」の指は、少しずつてのひらの中で「5」の指に寄せていくのがポイント。
そして「5」の指の打鍵時に、「5」の指を立たせない!
- この「くぐらせる」動作を決して「急がない」
- 「1」の指をくぐらせる時も、その動作は「1」の指の付け根から
- この時、肩は開いておく
指使いを検証してみる

右手、当初の(楽譜に指示のある)指使いでは「みそしれ みそしれ」は、「1234 1234」となっています。
でもね、上のトピックでこれを「1235 1234」で弾く事をオススメしましたでしょ。どうしてこちらの指使いの方が良いのか、検証します。以下は、「1234」の「4」で打鍵したもの。
以上、「1234→1」と弾く場合の画像でした。以下は、「1235→1」の場合です。
「1234→1」と「1235→1」の2種類の指使いで一体何が違うかというと、指潜りをする瞬間の「手首」の動きが違うのです。
「5」の指から「1」の指への指潜りをする場合、「1」の指は他の指に比べて短いので、手首から補助してあげる形での「指潜り」となる。これが、近道となるんですよ。
でもね、そのことを理解していないと、いくら指潜りの時に「5→1」という指使いを使っても、手首は生かされません。
じゃあ、「4→1」という指使いでも、手首を有効活用すれば良いのでは?と、思うでしょう?私は思いましたよ。だから、2種類とも検証したんです。
そこでわかったのが、「5→1」に圧倒的に軍配が上がった。「5→1」の動きで弾く方が、弾きやすくミスも減り、結果的に省エネ奏法が出来るというわけですよ♬
リタルダンドでのリズムに気をつけよう

序奏から本編へ移行するところのリタルダンドは、リズムに注意しましょう。
rit. だけではなく、リズムそのものが変わりますよね。アルペジオで駆け上る最後の3音のため方は、
音価相応に。
そして、音域が降りての「しれーどー」は、それまでと違って「語る」ように。次への伏線ですよ。
音のバランスと役割を考える

ここからはそれまでとは完璧に変わりますよ。
始めの重音のバランスを考えてみましょう。大事なのは右手の最高音と左手の最低音。次いで、右手の「A」です。それ以外の音も、決して欠く事なく、響かせましょう。
ブラームスとメンデルスゾーンの違い
この曲は、ブラームスじゃありません。ブラームスは重厚になりますが、この曲はメンデルスゾーン。メンデルスゾーンは、もっと「軽さ」を持っています。
メンデルスゾーンは、他のどの作曲家とも全てが違う。同じことは一つもありません。
では、どうやって「軽さ」を出すのか?
それはね、重音の上の音がポイントです。重音の上の音を、うんとよく聴かせること。そしてあなた自身が聴くことです。
その打鍵をする時の手の形=てのひらの緊張感を、一つ打鍵するごとに変えないよう意識してね。

右手、和音のトップ音が「メロディ」を担っていることを忘れないでね。(重音のバランスには、常に気をつけましょう)
1小節の中に(右手)3回も同じ「ファ#」が出てきます(画像の2小節目、黄緑で音符に○を付けています)。
その3つの「ファ#」打鍵を、同じにしないよう気をつけましょう。全てを変える。なぜなら、3つの「ファ#」は全て、感情が異なるから。
- 1つめのファ#は「終わり」
- 2つめのファ#は「始まり」
- 3つめのファ#は、その次への「ステップ」
なのだからね。3つの「ファ#」の意味が違うことが、わかるでしょう。

二つ目のフレーズでは、やはり右手の最高音と左手の最低音。次いで、一つ目のフレーズと異なる右手の「G」というバランスを意識してみましょう。
このフレーズはその前と違って「p(ピアノ)」。「f(フォルテ)」との違いを出す事を忘れないで。ただし、ピアノだからといって「ソフト」にすればいいわけではありません。ここではどんな「p」がふさわしいのか、あなた自身が出す音をよく聴いて、創っていきましょう。
また、8分音符四つは注意。決して8分の4拍子にならないようにね。この前後合わせて「ひとつ」=ひと息の呼吸で弾きましょう。
「ド#」はラブリーな音💓

「ド#」は、いつの時も「ラブリー♡」。「ド#」を打鍵するたび、「ラブリー♡」な気持ちを持ってみましょうか。あなたにとって「ラブリー♡」ってどんな感じかしら?

四つ目のフレーズの終わりの重音も、そのトップの「ド#」のラブリーさを感じて弾いてみましょうね。
バカみたいだと思う?でもね、イメージして弾くのはすごい力を発揮しますよ。
チェロの弓使いを想像する

ここは左手だけの練習をしましょう。同じ音(8分音符の「ド」)が繰り返されるだけだから簡単だと思いますか?いやいや、同音が続くのはなかなか難しいの。あなたはここ、どんな風に弾きたいかしら?元気良く?
と考えていきます。
ベースの2分音符は「ダブルベース」、8分音符は「チェロ」だ、と考えてみましょう。そう考えれば、8分音符一つずつを、どのように弾くべきかがわかります(見えてきます)。だってね、ダブルベースもチェロも、弓を使って弾くのですから。
想像してね。
リードするのはどっち?

ここは、「右手が先攻!、右手が左手を引っ張る=リードするので左手は後からついてくる」事を忘れないで。右手につられて、左手でも攻めていこうとしなくていいんです。
そしてここは「フォルテ」にまでなりますが、すぐ次では

「ピアニシモ」になりますよ。
このように、突然強弱の指示が変わる時には、すぐに入らないのがポイントです。必ず、「フォルテからピアニシモの”間”」をとりましょう。

ピアニシモからクレシェンドを経てピアノへ。そして、「もっとクレッシェンド」を経てフォルテになりますよ。
その頂点がどこにあるのか、もっと聴いている人にわかるように弾きましょう。そのためには、呼吸が大事ですよ。
弾く前に音を想像する

右手の和音、緑で○をしている音、その音が大事ですよ。
でもね、大事な音だからと言って、ただ出せばいいというものでもないんです。出し方=聴かせ方がありますよ。
それは、その音を打鍵する前に、自分でその音を「聴く」こと。
Pre-Listen つまり、前もってその音を想像するんですよ。さぁ、あなたの頭の中で、あなたが欲しい響きを鳴らしてね。

このクレッシェンドは右手の内声和音ですると、音がトップの4分音符メロディに近いので、メロディを分断してしまいます。それはちょっと残念よね。
だから、こんなところでは、左手でクレッシェンドしていきましょう。つまり、左手でクレッシェンドを助けるのです。

重音も、同じものが続く時は注意が必要です。特にここは小節をまたぐので、一つ目の重音と二つ目の重音は
意味がまったく違うもの。だから、打鍵を同じにしない。怠けないように。きちんと「弾き直す」事を忘れないで。
レイヤー(段階)を作っていこう

レイヤー(段階)を作って弾いていきましょう。二度ずつ上がっていくのがわかりますか?段階を経てフォルテシモへ向かっていきましょう。
二音スラーは、一音目は落して二音目で上げて。ただそれだけの事ですが、それを怠けないようにね。

クレッシェンド&デクレッシェンドは、この後も常に同じように段階を感じてつけていきましょう。
右手は各小節最後の32分音符四つは、必ず次の小節の第一音へ向かって行く。
どんな場面なのか?

このセクションはどんなシーンかしら?あなたは何を伝えたいのでしょう?あなたのイメージをなるべく明確にしておく事で、あなたの表現力・音楽力は更にアップしていきますよ。
ここは左手は嵐であり、「恐怖が近づいて来る音」。
右手はこれらの音の中にメロディが。さぁ、それをどう意識して弾きましょう?
これらの音の中にあるメロディは、どの小節も「出だしの5音」ですよ。上の画像なら「ソミドミソ」、次の小節は「ドソミソド」がメロディです。でもね、それも二つに分ける(グループ分けする)事ができますよ。
「出だしの2音」と「続く3音」に分けられます。続く3音の方を、よりレガートに弾くと、より自然に、より音楽的になります。これを弾く時に重要なのは「3」の指。「3」の指を支点にしてね。

「アッチェレランド」ではありますが、全ての32分音符を「均等に」弾くようにしましょう。32分音符の1音1音がどんどん速くなると言うよりは、拍ごとに少しずつ速くなっていく感じです。
そして、ずっとアッチェレランドとクレッシェンドを続けて来て、ここでフォルテになりますが、

この次の小節、更に「クレッシェンド」ですよ。どこまでクレッシェンドしていくのか、理解しておきましょう。

こういう時は、この「更なるクレッシェンド」に入る直前で、「息を止める!」これがポイントです。
ただし、「ソフト」にするわけではありません。ただ、息を止めて一度落すというだけ。
重音を弾く前に、手を広げる

この重音に入る直前に一度、手を「オープン」に(てのひらを広げましょう)。=ちゃんと「広げる」事をいしきしないと、重音をキレイにつかめません。
てのひらの、指の付け根に近い部分の筋肉を「感じる」のがポイントです。決して「手首」ではありませんよ。手首はリラックスでね。
左手の8分音符三つは全て同じテンションで。(テンションを落していかないように)腕の付け根から使って打鍵しましょう。

低音から高音へのオクターブのトレモロは、低音を左手で、高音を右手でとっていくのもオススメ。(32分音符1音ずつ、左→右→左→右…というように交互に弾くということ)
ただしこの時、一本指で弾くのではなく、左手は「5.4.3.2.5」でという指使いで弾いていくと、移動のロスがなくなりますよ。
オクターブ打鍵で気をつけるポイント

右手オクターブの「どらそふぁ|らふぁれど ふぁどしら」の打鍵ですが、1音ずつ上下の打鍵でぶつ切れにならにように気をつけましょうか。
- 1音めから2音めへは「落す」
低く歌うようにレガートで - 2音めから3音めへは、改めて落す(弾き直す)
- 3音めから4音めへも、改める
- そして4音めは次の1音めへ向かう
つまり、勢いを止めないように、勢いをどんどん出していきましょう。

右手の重音は、「3」の指で同じ音を弾きます。この時気をつけるポイントは、打鍵のたびに「きちんと動かす」こと。
そして、打鍵する鍵盤の位置を、奥と手前とで変えることです。

ここの右手は、4分音符打鍵から次の付点8分音符打鍵までの間、「ずっと4分音符の音を聴き続ける!」のがポイントです。右手の重音の打鍵は、押さず、持ち上げずで「重い物をつかむように」。その音が広がって行くのを怠けずに聴き続けましょう。
呼吸は大きくね。

ここで「Tempo I(テンポ・プリモ)=曲のはじめのテンポで」になります。遅くなっていかないように気をつけましょう。
画像の第1音の時に、息を更に吸っていくと豊かになりますよ。

左手の16分音符は、右手の16分音符への「答え」。だから、受け答えをきちんとしましょう。
これは「会話」です。

冒頭と同じパターンです。
アルペジオの切り返しのところで更に息を吸っていきましょう。

ここで大事なのは、右手トップの2分音符「ド#」ですよ。この音を聴き続けましょう。
また、画像の2段めで右手が和音になるところは、それらを「2音スラー」としてとらえる事。

最後まで、「Question & Answer」の会話をきちんと続けましょう。
背中側での呼吸と共に、腕をラクに使って弾いて行く。呼吸と体・腕の動きは連動していきます。指だけで弾かないように気をつけましょうか。

第1楽章の最後は、ものすごく「遠くを見るように」。実際、あなたの視線を遠くへ送りながら弾いてみましょう。
ピアノ動画*メンデルスゾーン「スコットランド・ソナタ」第1楽章
というわけで、メンデルスゾーン作曲「スコットランド・ソナタ(ファンタジー)」の第1楽章をお送りします。
なかなか難しい作品です。
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