スクリャービンの浮遊感を身につけるには「二つの詩曲」Op.32がオススメ!練習のポイント解説

2020年8月11日

ロシアの作曲家アレクサンダー・スクリャービン。

ラフマニノフと同じ時期に同じ音楽院で学んだスクリャービンの世界はちょっと独特です。

スクリャービン

スクリャービンはね、ショパンに似てるわね。
でも、似てるけど違う。もっと洗練されている。
ある意味、バッハにも似ている。
時にはドビュッシーにも似ている。
いろんなものが混ざり合っているんだよね。
それは彼の生き様から来るものだから、まずは伝記を読みなさい。

私が初めてスクリャービンのピアノ曲を学んだ最初のレッスンで、師匠が仰った言葉です。

今日は、スクリャービンの「二つの詩曲」作品32を演奏するポイントについて、お話ししていきますね。

スクリャービンは、バッハのようなポリフォニーな動きを理解するところから始めよう!

スクリャービン「二つの詩曲」Op.32-1から

このスクリャービンの「二つの詩曲」作品32は、本当にバッハのように複雑に、声部・音の動きが入り組んでいます。

それは三声だったり、時に四声になったりも。だからね、上声のメロディだけ歌っていればいいってもんじゃないのよね。

まずは、それぞれの音の動き・歌のラインを理解することに意識を置いてみましょう。

それぞれのライン(声部)を美しく歌えて、それらが見事に融合してナンボですよ。決して和音として縦読みはしないようにね。

まず片手ずつ弾いてみよう!では左手だけで弾いてみましょうか。

スクリャービン「二つの詩曲」Op.32-1から

もしもあなたが下段(ヘ音記号)の3つめの音(F#とB#)を、右手でも取ってるのだとしたら、ちょっともう一度考えてみる価値がありそうですよ。

3つめの2音を左手だけでなく右手でも助けて弾く方が、きっと弾きやすいよね。でもね、そうやってF#を右手で取っちゃったら、右手のメロディが

♪B#——|D#~~~♪じゃなくて
♪B#–F#|D#~~~♪って聴こえてしまいます。

だから左手だけでその2音を弾いてみましょう。

重要なラインを美しく弾くための指づかいと打鍵の方法を考える

1の指(親指)は、他の指に比べると鈍く、コントロールが難しいですよね。

もう一度画像を出します。

スクリャービン「二つの詩曲」Op.32-1から

和音から始まる内声の青○の音たちのラインはとっても重要ですよ(ヘ音記号表記)。

まずその「F#」と「B#」の、「F#」は1の指で取るでしょう。そして「B#」は2の指で取る。その前の「G#」打鍵と同時に3の指を軸に2の指は準備しましょう。

この時に気をつけたいのは、上からの打鍵をしないように。そして、指の付け根の関節を「押して」打鍵しないようにね。なぜなら、上からの打鍵・指の付け根の関節を押しての打鍵をすると、音色が悪くなってしまいます。その上、音が広がらないのね。

だから、指の付け根に関節があるということを、忘れちゃいましょう。

あなたが使うのは、指先の第一関節ですよ。そして、その指を動かしているのは肘の内側だと強く意識するのがコツです。

そうして、下から打鍵してみましょう。え?下から?って思うかもしれませんね。動作としては、鍵盤が落ちるから音が出る=上から鍵盤を落とすから、と思いますよね。

そうなのですが、指を上から振り下ろすように打鍵するのではなく、打鍵する前に、あなたの指は鍵盤に近いところにいる。まるで鍵盤に頬ずりするみたいにね。そうして、実際あなたの指は鍵盤の上にあるけれど、イメージとして、あなたの指は鍵盤の中に入り込んでいて、そこから発音のための打鍵をする感じです。

肘も腕も手首も全てを脱力した状態でね。余分な力をどこかに感じるなら、あなたの出来る範囲でいいから、リラ~ックスしてみましょう。

呼吸を考える

この初めのフレーズは息を吸うところです。もう一度画像を。

スクリャービン「二つの詩曲」Op.32-1から

肘と指先のレベル(高さ)を同じにして(この場合は肘も指先も低くして、ということ)、下から打鍵しますね。そしてそこから次に向けてふわ~っと上げていきます。打鍵の動きはいつも止まらない。必ず「前から今へ」→「今から次へ」と動作は一連。

そこで息を吸ったら次の小節の一拍目「Bナチュラル」の打鍵の時に息を吐きましょう。ロング・ノート=長く伸ばす音の時は、呼吸は吐いていきます。その中で、内声の青の音たちを紡いでいくんですよ。内声の動きに合わせて呼吸をするのではなく、呼吸はいちばん大事な上声のラインに合わせましょう。

そうすると、上声のラインの「内側で」内声が動いている=包まれている感じになりますよ。

あなたの手は呼吸する口と同じ。歌う時とのあなたの口の状態と、ピアノを弾く時のあなたの手は同じだと考えてね。「てのひら」の動きを止めないで。ちょっとやってみました~程度では伝わりません。もっともっと!と意識してみましょうね。

第1番2小節目の装飾音と呼吸を考える

2小節目の装飾音から「C#」への打鍵は、「たらりん♪」と軽く弾かないように。

装飾音二つの「たら」から次の付点4分音符の「C#」へは、きちんと打鍵の用意をしましょう。
5の指で打鍵する時は、1の指の付け根のところが支えになります。手の外側(5の指だけ)で弾こうとしないで。手の内側=1の指の付け根から「弾きに行くのを助ける」感じで弾いてみましょう。

スクリャービン「二つの詩曲」Op.32-1から

右手です。2拍目8分音符の「B」から3拍目「D#」への打鍵も、さらっとなんとなく弾いてしまわないように。呼吸!息を吸う→息を吐くということを忘れないで。

左手は内声の「A#」のロングノートから後の「BB」へ、気持ちをつなげていきましょう。その間に動きのあるバスのラインの動きだけに意識が行ってしまうと、内声で伸びている音とその続き(つながり)のラインが有ることを忘れてしまいますよ。

それらの打鍵はさきほどと同じね。

ピアニシモのスタッカートを考える

スクリャービン「二つの詩曲」Op.32-1から

画像1小節目の左手打鍵は今までと同じ。肘のレベルを低くして下から打鍵で上へという動きで。

問題は画像2小節目、右手のの16分音符スタッカートです。これはちょっとむずかしいですよ。

まずはあなたなりに指づかいを変えたり、打鍵の仕方もいろいろやって何かしっくりいく弾き方がないか、試してみましょうね。

私はここのところ、楽譜に書かれている通りの指づかいでは、滑って落ちてしまうので、「123123」で弾いていました。でもね、変えました。

ここで大事なことは、これら16分音符の音たちは「スタッカートだ!」って思わないのがポイントです。

まるで指先で頬をなでるように。指先だけで鍵盤をなぞっていく。指のどの関節をも支点としないこと。指づかいは(書かれている通り)「234234」を試してみてね。断然弾きやすいですよ。

「1」の指を入れると言うのは、一番短い指を混ぜるわけですから、指くぐりをする時に「ガクン」となりやすい。バランスを取りにくいんですよね。だから「234234」は意外にいいですよ。オススメ!

頬をなでるように。軽くほうきで、軽く軽く掃くような感じだね。ススス〜って。ちょっと色っぽいイメージもできたらいいですね。

フレーズのとらえ方とルバート

スクリャービン「二つの詩曲」Op.32-1から

この「二つの詩曲」Op,32は、ショパンの作品の特徴によく似ています。特に、ノクターンOp.9-2の出だしとこの曲の出だしはそっくり。メロディやその行方がね。

でも、ショパンと違うのは、スクリャービンはこの曲ではもっとフローに、ということ。もっと流されて、流れにのって。もっとルバートして!いい。

画像の2小節目、青縦線までが一つの小さなフレーズです。でもね、この曲の一つ目の大きなラインは画像2段めの赤縦線まで。だから青縦線で息が途切れてはダメなの。赤縦線までを一つの風に乗せられて吹かされていくようにね。

ルバートは、赤○が急いていくところ。それに対して青○は緩めていくところだと、とらえてみたらどうかしら?

フローに弾くための打鍵のコツは、もっと指を平たくして、鍵盤に触れる面を大きくする。そして、鍵盤を「押さない」こと。

鍵盤が下から上がってくることをいつもイメージして、上がってきた鍵盤にただ指が触れるだけ。それだけでいいの。

完璧に違う音色を出すには

第1番の7小節目を見てみましょう。

スクリャービン「二つの詩曲」Op.32-1から

右手の初めの「G#」。この音は、その前のフレーズからは、つなげません。だから、音色は完璧に違うものにしたいところ。

最初のフレーズの繰り返しだけど、最初とは違うことがあります。それはね、全ての音が高いですよね。前のフレーズと、気持ちはどう変わるかしら?

初めのフレーズは穏やかだけど、二つ目のフレーズはもっと気持ちが突き動かされていく感じがしない?そう、アジタートするのよね。

最初の「G#」を弾く前、右手は宙を舞って腕の全ての力を解放させて、そのまま打鍵します。続くメロディも、指の付け根の関節で音を出さずに、腕全体が何もない状態で鎖骨下を広げて、もっと広げてそこから音を出していく。

決してバロックや古典の打鍵にはならないように。試してみてね。

跳躍する装飾音は急がない・飛び込まないのがポイント

スクリャービン「二つの詩曲」Op.32-1から

右手最初の装飾音で跳躍、急がない!飛び込まない!と、言い聞かせてね。

装飾音を見ると、どうしても「パタン」「チャラン」って、すばやく弾きたくなってしまうかもしれません。でも、装飾音は書いて字のとおり「飾り付ける音」ですよ。どんなふうにその音を飾ったら素敵になるかしら?って考えてみましょう。

「てのひら」を緊張させて。でも固めるのではなくてね、「てのひらの中心」に何かを感じるみたいな緊張感をイメージしてみる。そして装飾されている音は、5の指での打鍵ですよ。5の指の打鍵は、1の指の付け根からその音に向かっていくのがコツだと、先にお話した通りです。

3拍目の5連符は、腕の重みを使って弾いてみましょう。全ての音を切り離してね。レガートだと思わなくていい。念を押すように、とでも言ったらいいかしら。

第1番Inaferandoセクション

スクリャービン「二つの詩曲」Op.32-1から

このスクリャービン「二つの詩曲」第1番は、ABAB’という構成。この中の「B」と「B’」にあたるセクションが「Inaferando」と書かれています。

Inaferandoとは、「魅惑的に」「神秘的に」といったニュアンス。弾いてみるとうなずけますよ。

このセクションも、まずは片手ずつやっていきましょうね。右手も左手も、流れて心地良く紡いでいきたいもの。

ではまず左手からいきましょう。

「た~らっ たた~らっ たた~ん」といったリズムってね、スラーの1音目の打鍵は下から。そしてそのまま動きを止めずに、上がっていく腕と手を利用してスラー終わりの音を打鍵していく=腕は上がりつつ、その途中でスラー終わりの音にふれるという感覚です。

次に右手。ここは右手が二声になっていますよ。上声部を聴かせて行くので、内声部()は上声部と同じレベルで弾かないよう意識してみましょう。

最初の音打鍵をやはり下から打鍵で上げていく。その動作の間で内声部の音に指を用意する。5の指が軸でね。

気をつけたいのは、内声の二音を弾く時。指の付け根の関節で押して打鍵してしまうと、音がストレートに出て、きつくなってしまいます。柔らかさは出なくなっちゃうので注意しましょう。

指先だけで滑らすように弾くだけでいいんですよ。「弾こう」と思わないでね。

休符を含む「タッカ」のリズムになるところは左手のラインと同じ。左手はきれいに弾けても右手も同じように弾けるとは限りません。人にはクセがありますから。だから、あなたにもクセがないか、敏感になってみましょう。

休符前の音を打鍵したら、腕全体が上がるのではなくてね。右手の「てのひら」が、5の指を軸に右側に傾いて、「てのひら」が上に見えるように動いていくことを意識してみましょう。そしてそのまま腕が浮き上がって休符後の音に飛んでいく。

ポイントは、「もっともっと柔らかく!」を常に意識することです。

第2番のフォルテを考える

スクリャービン「二つの詩曲」Op.32-2から

左の○「の8度」の闘魂は、右手の第一音「F♯」に注ぎ込まれます。右手の「F♯」に向かっていく音だ、ということを忘れないで。

単純にフォルテだー!と思って弾かないこと。きちんと気持ちを込めて弾きましょう。

スクリャービン「二つの詩曲」Op.32-2から

全ての8分音符は均等に!三つの8分音符の動きを一つのカタマリとして弾かないのがポイント。ここは個別に弾く。そして三つ目が一番大きくなるのだということを意識しましょう。

次の装飾音はアクセントがついているけど、そこが一番大きいわけじゃないの。装飾音ではなく、装飾されている音に向かうのだ!ということを忘れないで。

スクリャービン「二つの詩曲」Op.32-2から

ここ、画像のはじめがフォルテで、二段目のフォルテシモに向っていくわけではありません。

画像二段目フォルテシモの第一音は、サプライズ!ですよ。

そして続く内声の重音はフォルテシモのままではなく、落としましょうね。それがポイント。そして、この第2番の最初のフレーズと同じく左手低音の「C」が出てくることに注目してみましょう。

後半はピアニシモ→フォルテシモ→最終到達フォルテシモと膨らましていくだけです。

この曲は非常にシンプルなので、フォルテやフォルテシモに踊らせられないよう、きちんと楽譜を読み込みましょうね。

今日のピアノ動画*スクリャービン「二つの詩曲」Op.32

ティブレイクは、スクリャービン様の「二つの詩曲」Op,32をお送りします。

こちらは、香港シティ・ホールのリサイタル・ホールにて、2008年のクリスマス・サロン・コンサートにて。

ピアノはベーゼンドルファーでした。

スクリャービンの浮遊感を身につけよう!のまとめ

  • スクリャービンを弾くならポリフォニーを理解しよう!
  • 美しく弾くための指づかいを考える(既成概念にとらわれないで)
  • 打鍵は関節の存在を忘れよう!弾きに行かないのがポイント
  • ピアニシモのスタッカートは「なぞる」「なでる」ように
  • スクリャービンは、もっとフローに、もっと自由に!もっと流れにのろう!
  • 完璧に違う音色を出したいなら、何が違うのかを突き詰めて理解する
  • 跳躍する装飾音は飛び込まないのがコツ
  • フォルテの音はどこに向かっていくのか?を読む

スクリャービンは、どんなに短い曲でも、それまでスクリャービンを弾いたことがない人にとっては、「つかみどころのない難しさ」があります。いきなり大曲に挑戦するのもいいけれど、小曲でも学ぶことはたくさん!それに、どの曲もとっても素敵です。

だから、もしあなたがスクリャービンを弾いたことがなくて、何か弾いてみたいなと思ったら、この「二つの詩曲」Op.32や「前奏曲集」Op.11がオススメ。

背中から羽が生えているような感覚を持って、自由な感覚を楽しめますように。

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