スクリャービン「エチュード」Op.8-2を練習する9つのポイント
ロシアの作曲家でピアニストのアレクサンドル・ニコラエヴィチ・スクリャービン(1872-1915)。
同級生にラフマニノフがいるという、想像するだけでも凄い環境だったスクリャービン。手が大きかったラフマニノフとは逆に、10度も届かなかったスクリャービン。その割に、とても弾きにくい音の動きが多くて、嫌がらせか?と思ったのは私だけでしょうか。

それでも、スクリャービンの世界に馴染んでくると、ズブズブとはまる人も少なくないように思います。あなたはいかが?
スクリャービンのエチュードは、作品2の「3つの小品」第1曲の嬰ハ短調、作品8「12の練習曲」、作品42「8つの練習曲」、作品65「3つの練習曲」があります。この中でよく演奏されるのが「作品8-12嬰ニ短調」に「作品42-5嬰ハ短調」。ですが、他のエチュードもそれぞれに魅力が詰まっていますよ。
今日はスクリャービンのエチュードから「作品8-2嬰ヘ短調」を取り上げ、練習のポイントをお話していきます。
Contents
ピアノと一体化する

なんとこのスクリャービンのエチュードOp.8-2、出だしには強弱記号がありません。しかし、5小節目でようやく「メゾフォルテ」表示があることを考えれば、それまでにクレッシェンドもありますから、出だしは「ピアノ」で、と考えます。
右手は初めの三音「ファ・ソ・ド」は、ソフトに弾かないように。ノン・レガートで、「言いたいことがあるねん!」という感じを持って弾いてみましょう。
このエチュードは、ポエムでありカプリッチョであり、そして「コン・フォーコ」なのです。「コン・フォーコ」には「情熱的に」「燃えるように」という意味がありますよ。さぁ、あなたは何を伝えますか?
「ファソド」、ピアノ(p)だからといって、「あら~ん、今日も奥様素敵ねぇ~」なんて感じでは弾かないように。「ファソド」は、全て同じだけの気持ちを注いだ打鍵をする。「ド」に向うわけではありません。
「ファソド」全てに指を用意しておきましょう。これを和音として掴む状態にしておくのです。「掴み上げる」形ね。ただし、手首と肘は緩めておきましょう。「ファソド」打鍵で1アクション。1音ずつ別の動作にしないのがポイントです。
腹式呼吸で、丹田に気を集めてみましょう。あなたの臀部がドンと下に落ちていくようにどっしりさせて。そして、その三音「ファ・ソ・ド」に全身全霊を込めるように、吸い込んだ息をためておく。
あなたの指は、その先がピアノの奥深くに入り込む。ピアノとあなたの体は一体化していると強く思い込んでみましょう。
ピアノ=あなたなのです。あなたが実際に想いを込めて歌う・話す・伝えるのと同じように、あなたの気持ちのままに自由に音は出てくるもの。
「弾く」のではなく、「ピアノと一体になる」事を意識するのがポイントです。
バランスを考える

右手の「ファ・ソ・ド」で物凄い想いを吐き出したら、次の「ファシ」は何もないかのように。ただそこに音があるだけ。全ての音が出すぎないよう、バランスを考えて弾きましょう。
第2拍スタッカートの「ラミレソレファ」は指先が鍵盤に触れるだけ。スタッカートはレガートだと思って弾くこと。弾きにいかないようにしましょう。ただし、緩めるのとは違います。ここでエネルギーは弱まりません。「てのひら筋」を緩めずに弾くのがポイント。二の腕筋も使って、脇は引き締めて。気持ちは次の「ドー」に思いっきり向かっていきます。
「ラミレソレファ」の中に、大事な音がある。それは「ラ・・ソ・ファ」です。だから「ラミレソレファ」全てを同じに弾かなくていい。もっと時間をとることを自分に許しましょう。
「ラミレソレファ」の「ファ」から次の2分音符「ド」に行く時、ジャンプしないよう気をつけましょう。2分音符の「ド」は「1」の指で弾きますが、1の指は関節が二つしかありませんよね。あなたは「1の指」で打鍵する時、付け根の関節を使って弾いていませんか?もしそうだとしたら、付け根の関節を使うのはやめましょう。
1の指の場合は、他の指より関節が一つ少ないですよね。だから打鍵で使うのは手首。そこが1の指の付け根の関節だと考えてみましょう。
「ドー」にはスフォルツァンドでアクセントが付いていますよね。でもその打鍵はぶつけないように。上から打鍵しないで滑りこむように。指は鍵盤の中に入っていく事をイメージして。手首と肘をバネにして、音を飛ばすイメージを持って弾きましょう。決して打鍵で動きが止まらないように。テニスのラケットをパーンってやる時と同じ感じですよ。手首をもっと柔軟に!
カラーを変える

へ音記号の3~4拍目にある「ミファー」。これはそれまでと同じ調子で弾かないように。カラーを変えてみましょう。全てのカラーが変えてみる。「ミファー」はそれまでのフレーズに対する答えなんですよ。
コン・フォーコでカプリッチョですよね。だから、「てのひら」のテンションを上げて弾きましょう。
大事な音は「ファ#」

左手は、低音から上がってまた降りての繰り返し。この動きの中で、最低音は全て「ファ#」になっていますよ。この「ファ#」は、気を入れて。何となく弾かないように。「ファ#」は全てバウンスさせるようにして打鍵しましょう。
左手、1音から2音への「ファ#ード#ー」で、いきなり盛り上げないように。低音から上がっていきますし、クレッシェンドも書かれていますから、盛り上げたい気持ちは山々。でもちょっと抑えておきましょう。でもね、その後の「ド#ーシ#-」は、ちょっと前面に出てくるように。
3〜4拍の左手も、音の動きの通りにクレッシェンド&ディミヌエンドをつけてみましょう。もしここで何もしなかったら、折角右手で「ラミレソレファドー」とエネルギーが来たものを、なかったことにしてしまいます。なかった事にはしないよう、左手で助けてあげましょう。
それから左手「ファ#」が大事だというお話をしてきましたが、それも出方が場所によって変わってきます。一個だけで出てくるところと、1小節目の終わりから2小節目の拍頭に向けて「ファファー」って二度続くところ。
そういうフレーズの意味を考えて弾いていきましょう。
一番最初は出し過ぎないように。次は右手を受けて「もっと」。
ルバートを考える

ココは、常に「もっとレガート」を意識する。そして、フレーズの中の「高い音」に向っていくように弾くのがポイントです。
ここの1フレーズは三つの繰り返しで成り立っていますよね。それを、全て同じ調子で弾かないように。同じ形が繰り返される時は、必ず表現を変えるのがポイント。
あなたはいつも、第一音が間延びする弾き方をしていませんか?同じ弾き方では同じルバートになってしまいますよ。
あなたはこの三つの中で、どれを一番重要視するのか、考えてみましょう。
もしあなたが三つ目(最後)を大事にしたいなら、次のような弾き方がありますよ。
- 一つ目は第一音ルバート
- 二つ目はさらっと(レスで)
- 三つ目は終わりに向っていく弾き方(少々のcresc.と少々のrit.)
この「ドレソレファ…」の後は、「ドシラ」「シラソ」「ラソファ」を出していく事を意識しましょう。
時間を取ること。時間を取らないと、ごちゃごちゃになってしまいます。すると聴いている人には、あなたが何を伝えたいのか、わかりません。
違い・変化を理解する

1〜2小節目と違うことは何かしら?違いはメゾフォルテになるというだけではありません。
1小節目は1拍目からクレッシェンド。でもね、5〜6小節目は1拍目からのクレッシェンドです。細かいことを見落とさないようにね。
1〜2小節と同じフレーズですが、その時は「ファソド」だけではなく、「ファソドファシ」までを出してみましょう。
rit.とa tempo、クレッシェンドのタイミングを考える

8小節目の2拍目からリタルダンドの指示があります。つまり、リタルダンドするのはここから。それまでは決して緩めないように気をつけましょう。
7小節目はピアノ(p)から始まってクレッシェンドの指示が。このクレッシェンドは8小節目の第4拍の「dim.」まで続きます。ここで、クレッシェンドをかける音がありますよ。闇雲に全ての音で向かっていかないように。
じゃあ、クレッシェンドをかける音とはどこか?というと、まだクレッシェンドの指示がない2拍目後半からの右手「ソファミ」と4拍目後半からの
「ファミレ」そして8小節目第2拍の「ミレド」。この3つには共通点が。何だと思いますか?
それはね、音階になっているということ。しかも下降ですよ。クレッシェンドなら音が上がっていく時のほうが自然ですよね。でもこの2小節は、全体を通して、音は下りていっています。こんな風に動いている、ということを楽譜から読み取っていきましょう。
8小節目はめいっぱいリタルダンドしましょう。リタルダンドしたあと、ア・テンポにするのが早すぎないように。ア・テンポにするのは9小節目から。
7小節目からは、ピアノから始まって徐々にクレッシェンドしていきます。それをリタルダンドのところで最大にする。そのために、リタルダンドの始めの音を気持ちフェルマータで弾いてみると効果的です。フェルマータはやり過ぎじゃ?と思うなら、テヌートだと思ってみたらどうかしら。続くフレーズは、時間をかける事を許してあげましょう。
ピアノで始めてクレッシェンドしていくところ。そのクレッシェンドのクライマックスになるのが2小節目の頭です。右手は「レ」ですが、軽いフェルマータくらいの気持ち、で少し止める=とどまる感じで弾いてみると、そこがクレッシェンドの頂点であることを伝えやすくなりますよ。
そしてディミヌエンドする4拍目は全てテヌートで。

9小節目です。2拍目、右手にテヌートがついていますが、この小節はピアノ(p)なので、直前8小節目のテヌートよりもっと「軽く」、内面的なエネルギーを感じてみましょう。

10小節目。わずか1小節でピアノからフォルテまで持っていきます。こんな指示の時に気をつけるポイントは、1拍目から強くしすぎないように。
右手は「ドーシ」「ラ#ーラ」「ソーファ」「レーミ」を聴かせます。が、これらの打鍵に注意が必要。
1拍目で言えば、「シミドミシ」の中の「ド・シ」を聴かせます。「ド」の前の「ミ」を打鍵している時に、「ド」を弾く指を上げておく。「ド」を弾く指だけを上げるのではなく、小指側の手を上げる=「てのひら」を小指側から上げて、「てのひら」を外に見せるような感じです。そして、上から落とす。
また「ド」の後の「ミ」を打鍵している間に、次に弾く「シ」の指の用意をしておく。
左手は、ベースとテナーの二声に分かれています。そのどちらをもクレッシェンドしてアジタートしていく事を意識して弾いてみましょう。

11小節目の右手は二声の書き方をしていませんが、「ミドソドファミ」の中の「ソーファミー」という音階の動きを大事に聴く。それがポイントです。
より聴かせたい音の弾き方

画像の赤ラインの2音、ここは二声で書かれているので、この2音が大事なんだな?というのがわかるでしょう。このように大事にしたい音の動き、より聴かせたい音の弾き方にはポイントがあります。それはね、肩を使うということ。
フォルテの中で浮き出したい音がある時は、より大きな骨を使う事を意識してみましょう。指の骨よりは手首、手首よりは肘、肘よりは肩というように。肩の後ろの大きい骨(肩甲骨)を、バタフライをする時のように大きく回していく。肩甲骨を動かす・回す事を意識すると良いですよ。
指の付け根の関節の役割
より聴かせたい音を弾く時、あなたは「指の付け根の関節で打鍵」していませんか?
各指の独立練習(ハノンみたいの)ばかりを「マルカートで!」と子供の頃やらされてきた人たちに多い弾き方です。
指の付け根の関節はね、バランスを取る・支点になるだけ。指の付け根の関節からは、音を出しません(打鍵しません)。音を出すのは「丹田」だったり「大胸筋」だったり「肘」だったり「手首」だったり。
体のあちこちから用意された音の出し方なら、指先はただ鍵盤に入っていくだけです。体のあちこちから打鍵のためにやってきたエネルギーを、指の関節で分断させないようにしましょうね。
12小節目は、肩を回して弾く練習をしてみましょう。この時、腹式呼吸ではなく肺呼吸で、上体が上がっていく・膨らんでいく状態を感じて、そして一息にね。
そして、同じ形のフレーズでも、dim.になるところからは、回すのは肩ではなく手首になります。ちょっと意識してみてね。
一番の盛り上がり部の打鍵

ここ13小節目からは、この曲の一番の盛り上がりどころです。フォルテシモですね。
ここで大事なのは、ここから2拍ごとに左手が低音でオクターブを鳴らしている事。左手はオクターブの形を保っておきつつ、肘の位置を低くして
素早く打鍵。打鍵したら止まらずに、手首はバネを使ってパン!と上がる(上げる)。
この左手のオクターブの動きを把握していれば、流れがどうなっているかを理解できますよ。
右手、13小節目から15小節目に入るまではどんどんエネルギーを前へ進めていくように。
そして15小節目に入ってディミヌエンドでピアノまでもっていく時は、「力を失くしていく」のではありません。持っているエネルギー・氣は同じです。それを保って弾くのがポイント。
右手の弾き方は、10小節目と同じ。出すべき音は全て「てのひら」から上げて用意して打鍵。
左手オクターブ「レ」は、ただドン!と弾かないでね。「てのひら」を緊張させて落とすのがポイント。
その後の音型は、その形の通りにクレッシェンド&ディミヌエンドで、右手をサポートしましょう。画像2段目(15小節目)からは、少し緩めていく。
画像2段目の2小節目(16小節目)は、またクレッシェンドで3拍目からリタルダンドの指示が。この次の小節は、この曲のクライマックスでフォルテシモです。だから、この1小節でピアノからフォルテシモまで持っていかなければなりません。それをやるためには、リタルダンドのところで「時間をたっぷりかけて」次の小節のフォルテシモの準備をすること。
左手拍頭の低音「レ」と、そこから上がっていくトップの音だけを出すのではなく、低音「レ」からトップ音に向って1つのラインでクレッシェンドをする事を意識してみましょう。
左手3対右手5と、右手の方がたくさん/速く弾かなければならないと無意識で思っていませんか?右手は時間をかけていいんですよ。急がないでね。急ぐとぐちゃぐちゃになってしまいます。
低音「レ」の響きを続かせるには、ペダルを踏むタイミングがポイント。ペダルは低音「レ」の打鍵と同時に踏んでみましょうか。ペダルできちんと「レ」をキャッチするように。「レ」の打鍵ですぐにジャンプしてしまわないよう、ほんの少し保つように(ペダルにキャッチさせるために)。
画像2小節目(14小節目)の左手の山は、それぞれの山の頂点となる音が大事です。この頂点となる音打鍵は、スクイーズするような(絞り出すような)イメージで(伝わるかしら)。流れに巻かれて飛んでいかないように。山の頂点の音は、改めて上から打鍵し直す。
肩を使う音・丹田で弾く音

画像1段目の終わり(16小節目)、青○のところまでは肩を使って弾いていきます。肩を使うと言っても、肩からガシっと直角的に振り下ろすように弾くのではなく、肩甲骨を緩ませて回すような意識を持ってね。肺呼吸をしながら、あなたの上体は上へ釣られていく事をイメージして。
※ 肺呼吸とは、胸いっぱいに息をなみなみと入れるような、深呼吸。この呼吸だと、上半身から不要な力が抜けますよ。
でもね、次の拍の赤○のところでは、腹式呼吸に変える。そして丹田に氣を集めるのがポイント。集めた氣を、画像2段めのフォルテシモはじめの3音「ファソド」で出し切っていきます。
フォルテシモのノンレガートは「チョップ」で弾くのがポイント

17小節目はクライマックスで、再びフォルテッシモですね。ここは「ノン・レガート」という指示が。
第2拍の「ラミレソレファ」は空手チョップの要領で打鍵してみましょう。緊迫感が出ますよ。
rit.とa tempoは、いつも同じじゃない

20小節目のリタルダンドは、8小節目のリタルダンドとはちょっと違います。20小節目のリタルダンドは、2拍目だけですよ。(8小節目のリタルダンドは次の小節までかかっています)
20小節目は、3拍目では早くもア・テンポに。20小節目まではフォルテシモだったのに、突然ピアノになります。ここは指を寝かせて、指の腹で弾くことを意識してみましょう。
赤縦線の後のテヌートのカタマリは、指先の爪に一番近いところで、指を丸めて(寄せて)弾く。
明るくはっきりした音を出したい時はフィンガー・ティップ(指先)で。
柔らかい音を出したい時は指の腹や全体を使って弾くのがポイントです。
21小節目は、赤○の「シーラソー」を聴きましょう。
ピアニシモのフレーズを考える

21小節目はピアニシモです。出だしの右手「ラドラ」は緩めるようにルバート。でもね、その後(第3拍)で同じ形の繰り返しのところは、同じように弾かない。同じ弾き方・同じ歌い方を繰り返すのではなく、何かを変えましょう。
この曲は、これまでにピアニシモは出ていません。ココが初です。それを理解した上で、もっとソフトに、もっと繊細に心を込めてね。

23小節目と24小節目の右手は全く同じ。でもね、さっきもお話したように、繰り返しを安易に同じに弾かないように。何か歌い方の変化を考えてみましょう。24小節目はトリプル・ピアノ(ピアニシシモ)になるという違いはありますよね。でも、それ以前に表現を変える事を意識しましょう。
意識する、考える。それがあなたの表現力の幅を、表現力の引き出しを増やしていきますよ。

25小節目の左手「ふぁーどふぁーどふぁーどふぁーど」というタッカのリズムは、「ファー」に乗ると思うでしょうか。でも、それではあまりに普通。
こんな考え方もありますよ。「ファー」ではなく、「ド」に重き(気持ち)を入れる。ドからファに向っていく!と捉えてみるんです。この弾き方をするとね、スリリングになりますよ。一つの考えとしてご参考までに。
ピアノ動画*スクリャービン「エチュード」Op.8-8,Op.8-2
ティブレイクは、スクリャービン様の「エチュード」Op.8-8とOp.8-2をお送りします。緩急を考えて選んだエチュードでした。
2007年の香港サマーミュージックキャンプの、修了演奏会にて。
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