本日6月8日は、ドイツの作曲家ロベルト・シューマンの誕生日。私の大好きな作曲家、シューマンさまのお誕生日に敬意を持って、今日はシューマンの「子供の情景」という作品についてお話しますね。

シューマン「子供の情景」について

シューマンのピアノのための組曲「子供の情景」が作曲されたのは、1838年。翌1839年にライプツィヒのブライトコプフ・ウント・ヘルテル社から出版されました。総演奏時間約18分。

この「子供の情景」は、タイトルにこそ”子供の”と名付けられていますが、これは後の作品「こどものためのアルバム」とは違う点があります。それは、この「子供の情景」は子供のためだけの作品ではなく、大人のためのものでもあるということ。

音楽史家のK.H.ウェルナー(ヴェルナー)氏は「”子供の情景”は、若い心を保った大人たちのための曲集である。」と語っています。

1838年、シューマンが後の妻となるクララへ宛てた手紙にこう記されています。

今ボクは音楽がいっぱいで張り裂けそうな気がすることがよくあります。
何を作曲したのか、忘れないうちに書いておくと・・・いつか君はボクに書いたでしょう?
”時々あなたは子供のように思えます”って。この言葉の余韻の中で作曲したのです。

つまり、これがまるで魔法の筆のような働きをして、30ものちっちゃな可愛いやつが書けました。そこから12曲選び出して”子供の情景”と名付けたんです。君もきっと喜んでくれるでしょう。

だけど、(貴女が)名ピアニストであることは忘れて下さいよ。

むふふ。これはロベルト・シューマンからクララへのラブレターですね。こんな手紙と作品を贈られたらでれ~っとしちゃいそうです。

第1曲「見知らぬ国と人々」

ト長調4分の2拍子。親に連れられた子供が舟に乗って河を下りながら他国の景色や街並を見て行く。

今まで見た事がないような景色、自分(たち)とちょっと違う顔つきや衣装を身につけた人たち、聞き慣れない言葉が聞こえて来たりして、何もかもが新鮮でワクワクするような、でもちょっと怖いような・・・憧れを抱いたり・・・

そんな情景が思わず浮かんでしまう気持ちの良い、素敵な曲ですね。バッハを思わせる作り。ソプラノでの歌は中間部でバスへ展開していったり、内声はただの伴奏ではない。内声は内声で、それはそれは美しい。まるで「平均律第一巻第一番」プレリュードのよう。

中間部の終わりの音はフェルマータで

何か新しい素敵なものを見て、うっとりしているかのよう。そうして主題に戻っていきます。

第2曲「めずらしいお話」

ニ長調4分の3拍子。第一曲とはうってかわり、元気の良いリズムが印象強い曲です。異国の珍しいお話をたくさん聞いて、ウッキウキしちゃって、つい飛び回ってしまっているような情景が浮かびますね。

第一曲の主題「しーそー|ふぁーみれー」が、この曲にも見えますよ。

赤で囲っているところです。わかるでしょうか?

そして中間部ではこうなります。

これまで聞いてきた、いろんな「めずらしいお話」が頭の中でもつれあってしまっているよう。回想しているとでも言うのでしょうか。

そうして、また主題が戻ってきます。

第3曲「鬼ごっこ」

ロ短調4分の2拍子。本当に「鬼ごっこ」をしていることが想像できますね。何とも軽快・快活に走り回っているようです。ここでも、第1曲の主題を見つけることができます。

展開部の終わりでは

追いかける子と追いかけられる子が、まるでその形勢を逆転したかのようですね。

第4曲「おねだり」

冒頭からいきなり、第1曲の主題がソプラノに出てきます。ニ長調4分の2拍子。

この冒頭に見られるように、この「おねだり」は全て、各2小節が繰り返されます。そして2回目は必ずピアニシモなのです。

以下、現在「子供の情景」を学んでいるMちゃんと二人で創り上げたこの「おねだり」の解釈。それは、Mちゃんの
「どうして同じことが二回ずつ繰り返されて、
その二回目はピアニシモになっちゃうの?
(おねだりしてるのに、その気持が弱くなっちゃうの?)」
という疑問から、二人で考えていったこと。

うん、そうだね。きっと、Mちゃん(小5)くらいの歳の子が、お母さんかお父さんに
「ねぇ、これ欲しい!」
って、おねだりしてるんだよね。きっとね、最初は普通におしゃべりしてるみたいに「おねだり」するんだよね。

でも、なんか、反応薄くて、話を聞いてもらえなかったみたいで、ちょっと悲しくなっちゃったのかも。それで二回目は心の中で、あるいは独り言みたいに「欲しいのにな~」ってつぶやいてるんじゃない?

でもでも、やっぱり欲しくて、もう一回おねだりしてみるのよ、きっと。

そんで、またシカトされちゃうの?

そうかもね。それか、「今はダメよ!」とか、言われちゃうのかも。それで、また「しょぼん」となって、つぶやく(ピアニシモ)。

それでも!やっぱり欲しくて欲しくて諦められなくて、お母さん(お父さん)!ホントにワタシのハナシ、聞いてる?聞いてよ!って、ほら、ここでは

クレッシェンドが付いてるよ!?それまではなかったのに。きっと、つないでるお母さん(お父さん)の手を大きく振って、(それまでより)強く訴えかけてるんじゃない?リタルダンドもあるよ。ゆっくり大きく、気持ちを伝えてるんじゃない?

繰り返されるフレーズでピアニシモになるのは、やっぱりつないだ手をふりながら、ちょっと泣きそうになりながら気を引こうとしてるのかも?

「じゃじゃ、何でまた最初の(メロディ)が戻って来た時、またクレッシェンドなしでピアノなの?」

さぁ?それはどうしてだろうね?いろいろ考えられると思うよ?

  • それでもワタシの「おねだり」が聞き入れられなくて、悲しくなっちゃってる。
  • ワタシの「おねだり」を聞き入れてくれると約束してくれて、幸せになって、ちょっとその「おねだり」が本当にかなった時のことを想像しちゃってるのかも?

さぁ、どっちかな?或は、それ以外でもいいんだし。考えてご覧。どうなんだろうね?でも、ほら、この次の曲は「幸せいっぱい」だよ?

きっと幸せな気持ちになれるんだから・・・ワタシの「おねだり」はかなえられるんじゃないかな?

第5曲「幸せいっぱい」

ニ長調4分の2拍子。

(きっと)願いがかなった(と思われる)、その嬉しくて幸せいっぱいな気持ちが詰まった曲です。

これは、願いがかなった子供自身の喜びだけじゃなく、きっと、それを見守っているお父さんお母さんたちの、愛しい我が子を見つめる、そんな幸福感すら伺えます。

第6曲「重大な出来事」

イ長調4分の3拍子。

さて、一体何が起こったのでしょう?何かやらかして怒られる!っていうのとは、ちょっと違いますね。

男の子なのかもしれません。いや、きっと男の子。もしかしたら、おもちゃの兵隊さんが欲しかったのかも?それを手に入れることができて、兵隊さんごっこでもしているのかしら?

子供にとって、大人の世界を垣間みる・ちょっと大人の真似事をしてみるって、一大事だと思います。

たとえば女の子。お母さんの目を盗んで、ちょっとお母さんの化粧品に手をつけ、鏡の前で大人気取りになっちゃったり。

男の子なら?今じゃない昔ですから、兵隊さんごっこだったのかも。子供って、すぐお話の世界に入り込めますよね。

私もそうでした。昔々ちびっ子だった頃は「アルプスの少女ハイジ」とか「小公女セーラ」とかが大好き!何故か屋根裏部屋にとっても憧れて、いつも押し入れにこもっちゃってるような変な子でした。

両親が家を建てる!と言った時も「屋根裏部屋が欲しい!屋根の斜めになってる部分に窓付けて!」と注文付けて、「アホか、そんな面倒なこと(規格外なこと)したら、仰山お金かかるわ」と却下されましたです

さて、そんな解釈は実は全然違うのかもしれないですが、とにかくこの「子供の情景」は、それぞれの曲全てをいろんな風に想像し、情景を思い浮かべることが可能です。

あなたのこの「重大な出来事」の解釈は?

第7曲「トロイメライ(夢)」

「子供の情景」の中で一番有名な曲ですね。

ヘ長調4分の4拍子。ドイツ語で夢は「トラウム」と言うそうですが、そこから派生して「トロイメライ」は「夢見ごと」というような意味になるようですよ。

この曲も、非常にバッハ的な四声。なんて美しく四声が絡み合っているのでしょう。うっとりします、まさに「夢見心地」。

私の幼少時代(例の押し入れ熱中時代)、私の母は子供の世話を一生懸命やくような人ではありませんでした。子供と一緒に遊ぶとか子供を寝かしつけるために子守唄を歌うなんてことは皆無。私は幼稚園の頃から一人自室で寝かされていました。

そして、枕元にはこの「トロイメライ」のオルゴールが置かれていたのです。いつもねじをいっぱいに巻いたオルゴールの蓋をあけて、「トロイメライ」が鳴り止むまで聴いて、聴いているうちに寝てしまっていたのでしょう。

さて。
今日の最後のレッスンだったNさん、この曲のレッスンでした。最初は大きくゆっくり息を吸って吐きながら弾き始めるのに、すぐに吸った息を止めてしまって体がガチガチになってしまいます。

「どー|ふぁーーーーみふぁら|どふぁ ファーーー」

最後の「ファーー」は、すごくうっとりしちゃう音。「うっとりしちゃう」時って、あぁって仰ぎ見るように顔の表情も揺るんで、体中の力が抜けちゃうような感じになりませんか?

ほら、温泉に入って、どば~んってお湯に浸かって、

が~~、気ん持ちイィ~~、ぷは~~~~

って、そんな風になりますよね?そんな感じで!って言うオヤジくさい私

そう、この曲は、楽しい夢を見ている、うっとりしている。夢だから、輪郭がちょっとボヤけた感じで。だから一音一音をかっちりはっきり弾かずに、どんどん抜けて行くように。間違っても、金縛りに遭ってしまうような怖い夢ではない(笑)。

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第8曲「炉端にて」

先日、Mちゃんに「炉端」って何?と聞かれ、説明に大変難儀しました。今どきは「コタツ」の実物を見たことがない子も少なくありません。一生懸命説明したんですが、わかってもらえたか、自信ありません。

へ長調4分の2拍子。この曲も四声です。

自筆稿に記された日付から、この「炉端にて」は「トロイメライ」の翌日に作られたことがわかっています。

炉端と言えば・・・やはり炉端に家族や親しい友人が集まって、食べたり飲んだり、わいわいがやがやと、きっとシューマンたちの時代ならば、歌ったり楽器演奏したりしながら楽しく暖かく(温かく)過ごしただろうと想像できますね。

そんな、温かく楽しく、もしかしたら歌や楽器演奏に合わせて周りで踊っちゃってる人までいるかも?という情景まで浮かぶシンコペーション。

第9曲「木馬の騎士」(竹馬)

ハ長調4分の3拍子。この曲は三声。

それまでとは変わってリズミカル!非常に楽しくて活気に満ちた曲です。前の曲に出て来たシンコペーションが、この曲ではもっと前面に出て来ています。

子供がキャッキャッと騒ぎながら木馬にまたがり木刀?で遊んでいるような情景。

第10曲「むきになって」

嬰ト短調8分の2拍子。#の多さと一見意味不明なリズムとメロディにより、子どもたちに嫌われる確率の高い曲です(笑)。

原題の直訳は「ほとんど真面目過ぎるくらい」だそうです。ちょっと意味不明(笑)。そんなタイトルとは裏腹に、ちょっとけだるいような、何か言いたいんだけど、言ってもわかってもらえないし、と諦めちゃうような雰囲気です。

だけど、きっと自分の中では一生懸命考えて、何をどうやって伝えようか?って、そこが「真面目一本」?まっすぐに=むきになって、ということなのかもしれませんね。むきになって=やっきになって!とは、ちょっとニュアンスが違うでしょう。

第11曲「怖いよ」

ト長調4分の2拍子。本当に、何かに怯えているような始まりです。

子供の頃、おばあさんや近所の人とかから昔話を話してもらったことは、ありませんか?そんな中にはちょっと怖い話もあったでしょうか。夜、布団に入ってから、そんなお話を思い出してしまうとその怖い話が夢にまで出てきそうで怖くて怖くて・・・

そんな思い出はありませんか?

第12曲「子供は眠る」(眠る子供)

そうして子供は寝てしまうのです(笑)。こちらの曲はホ短調4分の2拍子。

曲名の意味ですが、正しくは「眠りに入る子供」であって「寝ている子供」ではないそうです。

眠りに入る前にうつらうつらとした、そんな感じが始めの8小節に表れています。そうして中間部ではいよいよ深い眠りに入ろうとしていく。

まるで水に浮かぶような、つまり全身が脱力していくような、そんな感覚ですよね。

第13曲「詩人は語る」

ト長調4分の4拍子。

眠りについた子供は夢の世界へ入って行きます。夢の語り手は詩人。シューマンの作品には、夢・ファンタジーが現実と交錯するものが多いです。シューマンから夢・幻想は欠かせません。

この短い「詩人は語る」には曲中にカデンツァもあり、まさにこの「子供の情景」全ての終わりを夢の中で語る詩人のレチタティーヴォのようです。
※「レチタティーヴォ」とは「叙唱」「朗唱」などと訳されますが、感情の独白や状況説明のような場面で用いられます。

詩人は語り、眠りについた子供は夢と現実が入り混じってしまうのかもしれません。

「子供の情景」の演奏動画

では最後に「子供の情景」の演奏をお送りします。

1曲ずつはとても短く、取り組みやすいですが、是非全曲続けて全体を味わってほしいなと思います。

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