【ピアノ曲紹介】シューマン「クライスレリアーナ」Op.16について

2020年7月3日

ドイツの作曲家、ロベルト・シューマンのピアノ曲「クライスレリアーナ」を聴いたことはありませんか?

シューマン・マニアのことを「シューマニアーナ」と言うようです。
私は自分のことをシューマニアーナと言うにはおこがましいというか、及ばないと思うのですが、とにかくシューマンは大好き。

というわけで、今日はシューマンのピアノ曲「クライスレリアーナ」Op.16をご紹介します。

シューマニアーナにとってはたまらないピアノ曲集、それが「クライスレリアーナ」。

シューマン作曲「クライスレリアーナ」とは?

ロベルト・シューマンは、1810年生まれで1856年に没したドイツの作曲家。

シューマン自身がピアニストとして活躍しようとしていた事もありますが、指を強化しようと間違った訓練をしたせいで、逆に指を痛めてしまったのですね。

同じ時代を生きたショパンとは全く違う、シューマン独特の夢や憂いが様々な作品に散りばめられています。
そしてシューマン作品を弾くといつも思うのは、根底にバッハがあるということ。

それはさておき「クライスレリアーナ」ですね。

私たちはこの曲集のことを「クライスレリアーナ」と呼んでいますが、正式名称は「クライスレリアーナ ピアノのための幻想曲集」と言います。

シューマンには「幻想曲」と名付けられた曲は、他にも

  • 幻想小曲集Op.12
  • 幻想曲ハ長調Op.17
  • 幻想小曲集Op.73(クラリネットとピアノのための曲集)
  • 幻想小曲集Op.88(ヴァイオリンとチェロとピアノのための曲集)
  • 3つの幻想的小曲Op.111
  • 幻想曲ハ長調Op.131(ヴァイオリンとオーケストラのための)

こんなにあるんですよ。シューマンにとって「幻想(ファンタジー)」は、とても大事でいつも身近にある事だったんだと思います。

さて、「クライスレリアーナ」は1838年に作曲された8曲からなるピアノ曲集。
シューマンが28歳の時の作品ですね。この「クライスレリアーナ」は、ショパンに献呈されています。

「クライスレリアーナ」が出版されたのは、作曲されたのと同じ1838年にウィーンのハスリンガー社から。

「クライスレリアーナ」全8曲の演奏時間は、約32分です。

クライスレリアーナとは何なのか?

「クライスレリアーナ」って何なの?ですが、「クライスレリアーナ」とは、「クライスラーの事など」という意味だとか。

では、「クライスラー」って何?ですよね。
「クライスラー」とは何?ではなく、誰?です。

「クライスラー」とは、E.T.A.ホフマン(劇場監督、指揮者、監督、楽長、演出家)の筆による「楽長クライスラー」のこと。

「クライスラー」はホフマンのペンネームでもあり、自身の事を表している事もあったようですが、モデルとなる実在の人物がいたそうですよ。

それはクレメンティの弟子で、後にメンデルスゾーンを育てた音楽家として知られているルードヴィッヒ・ベルガー(1777-1839)という人。

「楽長クライスラー」とは、年配で、亡霊のような人物だ、とも言われています。

クライスレリアーナが作曲された頃のエピソード

「クライスレリアーナ」を作曲した頃のロベルト・シューマンは、後の妻クララの父(であり、ロベルトの師匠)から、クララとの結婚を反対され、執拗な攻撃を受けていました。

ロベルトはクララに宛てて

 この前、君に手紙を書いてから、新しいものをまるまる一冊仕上げたよ。
 ボクはこれを”クライスレリアーナ”と名付けるつもりです。
 この曲の中では、君と、君への想いが主役を演じている。
 これは君に捧げます。
 他の誰でもなく 君に。

 ・・・ボクの音楽は今の状態そのまま、素朴で、
 しかもまっすぐに貴女の心へ語る言葉で溢れていると思えるのだ...

と手紙を送っています。これは1837年4月14日の手紙。
でもね、実際はショパンに献呈されましたね。

クライスレリアーナ第1曲「激しく動いて」

シューマン「クライスレリアーナ」第1曲”激しく動いて”冒頭

「クライスレリアーナ」第1曲”激しく動いて”は、4分の2拍子でニ短調。

わき上がる不思議な音の渦は、狂気の世界。
しかしそれは規則的に爆発し、噴き出していきます。
それをためらうような左手バスの動き。
ためらいながらも、右手の3連音符を追いかけていきます。

中間部では変ロ長調に転じて優しさが溢れてきますよ。
この明暗の対照的な表現は、シューマンならではでしょう。

クライスレリアーナ第2曲「心をこめて、速すぎずに」

シューマン「クライスレリアーナ」第2曲”心をこめて、速すぎずに”冒頭

シューマン「クライスレリアーナ」の第2曲”心をこめて、速すぎずに”は4分の3拍子で変ロ長調。

第1曲とは本当に対照的です。
なんてゆったりとした幸せに包まれるのでしょうか。この第2曲には、間奏曲を二つ持ち合わせています。

クライスレリアーナ第2曲の間奏曲1「生き生きと」

シューマン「クライスレリアーナ」第2曲の間奏曲1”生き生きと”から

「クライスレリアーナ」第2曲の間奏曲1”生き生きと”は、軽快なジーグ風です。

第2曲の主題を交えて、間奏曲2へと動いていきますよ。

クライスレリアーナ第2曲の間奏曲2「やや動いて」

シューマン「クライスレリアーナ」第2曲の間奏曲2”やや動いて”から

「クライスレリアーナ」第2曲の間奏曲2”やや動いて”では、憧憬の気持ちが表れています。

ホフマンの「クライスラー」の言葉を借りるなら

 あざとい和音変化も わざとらしい音型もなく、歌は流れる。
 花灯りの中を銀の流れが通るように...

「あざとい和音変化」って!!!そう、そんなものはなく、流れていくのです。
やや、動いていくの。その動きをただ感じたいですね。

クライスレリアーナ第3曲「激しく駆り立てられて(とても興奮して)」

シューマン「クライスレリアーナ」第3曲”激しく駆り立てられて(とても興奮して)”から

シューマンの「クライスレリアーナ」第3曲”激しく駆り立てられて(とても興奮して)”は、4分の2拍子でト短調。

ホフマンの描く楽長クライスラーは、音楽に我を忘れる激情の人でもありました。
その側面は、この「クライスレリアーナ」第3曲と第7曲に現れています。

第3曲”激しく駆り立てられて”の最初のセクションで表しているのは、「駆動力」。

そして中間部は変ロ長調になります。

シューマン「クライスレリアーナ」第3曲”激しく駆り立てられて(とても興奮して)”中間部

「クライスレリアーナ」第3曲の中間部で表しているのは「恍惚の時」。

そしてまた初めのセクションが再現されることで、狂乱のコーダへ転じていきます。

「おお悪魔よ悪魔!
 お前の地獄の霊が いつ私にのり移ったか!
 私の耳は鳴り、頭は轟く、全神経がふるえる!」

クライスレリアーナ第4曲「きわめて遅く」

シューマン「クライスレリアーナ」第4曲”きわめて遅く”から

「クライスレリアーナ」第4曲の”きわめて遅く”は、4分の4拍子で変ロ長調。

まるで、激動の果ての脱力状態のよう。
静かで美しい歌は、興奮を抑えているようでもあります。

シューマン「クライスレリアーナ」第4曲”きわめて遅く”から

なんて美しいのでしょう!

シューマンは本当に、静と動の対比・聴かせ方が抜群です。

「わたくしは静かです。
 まもなくお傍にまいります・・・

 この時私を貫いた感情を、誰がいい表せるだろう!
 心の奥深い痛みは和らぎ、愛しい憧憬となって、
 すべての傷に点の香薬を優しく注いだ。
 私はすべてを忘れ、ただ音に耳をひたすら傾けた。
 この世ならぬところから ふり降りて私を包み、
 慰めを支えるこの音に・・・」

クライスレリアーナ第4曲ピアノ動画

シューマン作曲「クライスレリアーナ」第4曲”きわめて遅く”。

クライスレリアーナ第5曲「ひじょうに生き生きと」

シューマン「クライスレリアーナ」第5曲”ひじょうに生き生きと”から

シューマン作曲「クライスレリアーナ」第5曲の”ひじょうに生き生きと”は、4分の3拍子でト短調。

この第5曲では、二面性が現れています。
それまでとは全く別の世界に入ったような感覚。
炸裂するリズム!このリズムは喜びなのか、嘲笑なのか?
それとも地の精コボルトの跳躍なのでしょうか?

とても強迫的なリズムです。

クライスレリアーナ第6曲「きわめて遅く」

シューマン「クライスレリアーナ」第6曲”きわめて遅く”から

シューマン「クライスレリアーナ」の第6曲”きわめて遅く”は、8分の12拍子で変ロ長調。

まるで、広くて深い海に体を漂わせているような「広い空間」を感じます。
あたたかな和音に包まれた中で動く内声の歌が、何かに抑えられているよう。

ホフマンの言葉を借りるなら、こうです。

「その歌はきわめて繊細な、そして一見単純だけれど深く内面に
 訴えかける音の中に、憧れについて語るように思えた。
 敬虔な心の持ち主がそれによって天まで高められ、
 地上で奪われた全ての愛するものを再び見いだすような、
 そういう憧憬について・・・・」

中間部は8分の6拍子になり、少し動きが出て来ますよ。

シューマン「クライスレリアーナ」第6曲”きわめて遅く”中間部

それでも「ゆったりした」中での動きは、温かささえ感じます。

クライスレリアーナ第6曲ピアノ動画

シューマン作曲「クライスレリアーナ」第6曲の動画です。

クライスレリアーナ第7曲「非常に速く」

シューマン「クライスレリアーナ」第7曲”非常に速く”から

シューマンの「クライスレリアーナ」第7曲は、4分の2拍子でハ短調。

この大7曲は、それまでとは全く別のものになってしまうかのような動きを見せます。
急転直下、といった感じ。
緊迫感に満ちて、もの凄く重大な事が迫ってくるような様。

何かと決別するようでもあります。

ホフマンの言葉から。

「知らないか、こいつを! 
 知らないのか、こいつを!
 燃えるようなかぎ爪で、ボクの心をひきさくこいつを!」

中間部ではフガートで更に高揚していきます。

フガートとは

フガートとは、何か?

シューマン「クライスレリアーナ」第7曲の”フガート”部

交響曲などの一部に現れるフーガの部分は、フーガの提示部やストレッタなどの様式・技法を用いて作曲されています。

しかし、フーガとしての要件を全て満たしているわけでもありません。
また、独立した曲でもなく、一つの曲や楽章の部分をなしています。
このようなものが、「フガート」と呼ばれているもの。

クライスレリアーナ第8曲「速く、諧謔をもって(戯れるように)」

シューマン「クライスレリアーナ」第8曲”速く、諧謔をもって(戯れるように)”から

シューマン作曲「クライスレリアーナ」の第8曲(終曲)は、「速く、諧謔(かいぎゃく)をもって(たわむれるように)」となっています。
8分の6拍子でト短調。

ホフマンのクライスラーが、ある日突然姿を消すように、浮遊するようなリズムとバスの動きは、まるでクライスラーの蒸発との関連性をにおわせているよう。

クライスラーは言った。

「あぁ友よ、ボクの人生には暗い雲の影がさしているんだ。
 罪もないかわいそうなメロディに この世で自由に翔びかけるような場所が、
 どう望んでも許されないとしたら・・・

 ええい、もうボクはメフィストフェレスのマントの代わりにお得意の中国風のガウンでもひっかけて、あの窓から飛んでいってしまおう!」

そこで忠実な友が口を挟んだ。

「罪のないメロディとしてかね?」

そしてクライスラーは答えた。

「さもなければ、固執低音としてだっていいさ!
 どうだっていいから、もう、行ってしまうんだ!」

そして間もなく彼は本当に去ってしまったのである。

「クライスレリアーナ」というピアノ曲集は、楽長クライスラーという像にシューマンの愛と憧憬を、詩的に重ね合わせた音楽なのかもしれません。

あなたもぜひ、シューマン作曲の「クライスレリアーナ」を弾いてみてね。

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