日本のピアノ愛好家の皆様は、どの作曲家がお好き?と聞くと、圧倒的にショパン様が多いように思います。いや、私はショパン様より○○様の方が好き!という方ももちろん、たくさんおられるでしょう。でもね、ショパン様と同じロマン派を代表する作曲家の中で、とりわけ同い年のシューマン様は、お好きな方が少ないようで・・・

ドイツの作曲家ロベルト・シューマン

あなたはいかが?ちなみに私はシューマン様が大好きなんですよ。だからね、シューマン様の事やシューマン様の作品のこと、簡単にでいいから知って欲しいなと。

というわけで、本日はシューマン様の「アベッグ変奏曲」Op.1についてご紹介致します。実はね、私がシューマン様の作品で最初に学んだ曲でもあり、シューマン様が大好きになったきっかけの作品でもあるの♪

シューマンのピアノ曲「アベッグ変奏曲」とは

アベッグ変奏曲のテーマ

この「アベッグ変奏曲」は、シューマンが20歳の時に書かれました。この時、ロベルト(シューマン)は後の妻となるクララの父ヴィーク先生のもとへ、ピアニストになるべく弟子入り。まさに弟子入りしたのと同じ年のことです。

ロベルトがその後、練習のし過ぎだとか練習法を誤った事により指を痛め、ピアニストとなる道を断念せざるを得なかったというハナシはご存知のかたも多いでしょう(これも今では別の説が唱えられています)。しかしこの作品を生み出した時のロベルトは、自分の将来はピアニストであると信じてそれに向かって精進する毎日だったのです。

つまり、この「アベッグ変奏曲」を自分でコンサートで弾いて広めていくことを想定していたのかもしれませんね。

アベッグ変奏曲”主題”について

「アベッグ変奏曲」は、(献呈されたとされているアベッグ夫人の名前の綴りである)ABEGGという五つのアルファベットを「らしみそそ」という音名にあてはめた主題から成っています。その主題を元に、三つの変奏曲とカンタービレとフィナーレ(ファンタジア)で構成。

「アベッグ変奏曲」のように、言葉(文字)を主題にした曲はシューマンの作品に限らずたくさん存在します。この「アベッグ変奏曲」の主題は、なんと甘美なことでしょう!そう、サロンの雰囲気がします。20歳の若き青年(当時の20歳はそう若くはなかったのかもしれません)が、明るく幸せな将来を夢見ていた、そんなことを感じられますよ。

ポリーヌ・フォン・アベッグ伯爵夫人に献呈されたことになっていますが、この人物は存在していなかったのだそうです。

アベッグ変奏曲”第1変奏”について

がしかし!甘美な主題に続く第一主題は!突然何事が起きたのでしょう?

「アベッグ変奏曲」の第1変奏から

第1変奏は、甘美な主題に続くものとしては、ちょっと攻撃的になります。が、決して攻撃しているのではありません。一体何が起こったのでしょう?それを考えるのも、あなたがこのアベッグ変奏曲と向き合って、あなたの音楽を作り上げていく中で重要でワクワクする作業です。

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アベッグ変奏曲”第2変奏”

そして第1変奏とはうって変わる第2変奏。

アベッグ変奏曲”第2変奏”から

「アベッグ変奏曲」第2変奏は三声。実は第1変奏も三声ですが、第2変奏は三声であることが、第1変奏より明確。

この第2変奏は、シューマンの他の作品にも見られるように、切羽詰まるような追いかけ方をしていきます。私はこの追いかけ方、追い立てられ方の空気がとても好き。何故なら、いろんなパターンの現象を想像することができるからです。これがポリフォニー(多声音楽)の面白いところ。

主役はソプラノかしら?アルト?それともベース?立場を変えたら??と見方を変えていくと、いろいろな表現法が生まれますよ。

アベッグ変奏曲”第3変奏”

アベッグ変奏曲”第3変奏”から

そして続く第3変奏。これまたガラッと雰囲気が変わります。下手すると能天気になってしまうかも?

右手の流麗な動きは、まるで輝ける未来へ迷う事無く駆け上がっていくかのよう。そんなこの音階に、「どうどう!」と待ったをかけるような、或は後押しするような左手の跳躍で始まり、あっという間に駆け抜けていく第3変奏です。

アベッグ変奏曲”カンタービレ”

アベッグ変奏曲”カンタービレ”から

まさに、「カンタービレ」というのが相応しい。「カンタービレ」とは「歌うように」とか「美しく」という発想記号です。

この「カンタービレ」の冒頭の、緩やかに伸び上がるソプラノ・ラインは、そのまま美しく透き通った肌の女性が伸びやかに歌う姿を想像するに難くありません。

伸び上がった後の下降や内声トリルも、女性が喉を震わせてコロコロと歌っていることが想像できます。その、まさにカンタービレなまま流れていき、そして、フィナーレへと続く。

アベッグ変奏曲”フィナーレ”

アベッグ変奏曲”フィナーレ”冒頭

さぁ、まるで舞踏会の佳境に入ったかのようで、ワクワクします。素敵な紳士に出逢ったかのよう。或は、あなたが紳士ならば美しいお嬢さんに目が釘付けになったかのようでしょうか。まるで大きなダンスホールで、紳士淑女がパートナーをどんどん換えながら優雅に踊っていくかのよう。(うーん、日本人的には小学校の運動会のフォーク・ダンスかな?紳士淑女とはかけ離れていますが。笑)

気になるお方が近づいてくる。あぁ、もう少しで手を取り合って踊ることになるのだわ!というような・・・別にダンス・パーティでなくてもいいのですが。

楽しみな事って、待っている間の方がワクワクしますよね。そして、その<事>が、いざ今始まる!ということになると、えええええ?もう終わっちゃったのぉぉお?ってくらい、あっけなく(猛スピードで)終わってしまう。楽しい時間ほど、あっという間。このフォナーレは、なんだかそういう時間のようです。

その「わくわくしていた時間」が、あっ!終わってしまった・・・・と一瞬、時が止まって、ほんと一瞬のうちに回顧してしまう時間がこちら。

アベッグ変奏曲”フィナーレ”の終わり

ad libitum で押さえた和音、低音から一音ずつ離していきます。ベース音は別として、右手の音だけ(画像の上の段を)見てください。はじめに離していく音から、「ら」「し」「み」「そ」「そ」と、きちんと主題のABEGGを回顧しています。ここがめちゃめちゃ好き!

そしてこの最後の「そ(G)」を離した後の4分休符のフェルマータの後に、またこのフィナーレの冒頭が再現されます。一瞬止まった「時」が、元に戻るその感覚!お見事ですよ。

アベッグ変奏曲”フィナーレ”終わりの補足

私の楽譜ではこうなっているという画像を上にアップしましたね。しかし、実は初版ではこの部分は違うもので、以下の画像のようになっていました。

アベッグ変奏曲”フィナーレ”の終わり(初版)

初版は1831年にキストナー社から出版されました。しかしその後に少し訂正を入れ、第2版が1834以降に出ています。

初版ではこの部分、一音ずつ弾かせていくことになっています。しかし改訂版では、タイにして音を一つずつ放していくことにより、”回想”をより濃くしているかのよう。心の耳で聴く、味わう、というものです。

アベッグ変奏曲”アベッグ”の由来

シューマン様作曲の「アベッグ変奏曲」は、伯爵令嬢パウリーネ・フォン・アベッグに献呈されたことになっていますが、この方は実在していないと先にお話しました。

しかし、シューマンの周りに「アベッグ」さんという方は実在!それは、当時ピアニストとして知られていた伯爵令嬢のメータ・フォン・アベッグさん。(ファースト・ネームが違うだけですね。)そして、実際にシューマンが親しかった医学生にも、アウグスト・アベッグという人がいました。

「ABEGG」という綴りから主題を展開させるというアイディアは、この友人たちとの関わりによるものと思われています。ですが、彼らへ献呈することなく架空の人物へ献呈したというのは、彼らの存在はシューマンにとって、それほど強烈なものではなかったとも考えられているんですね。

また、当時シューマンの周りには、カロリーネという可愛い女性がいたそうで、そうやって周囲のいろんな人の名前を掛け合わせて、架空の人物「パウリーネ・フォン・アベッグ伯爵令嬢」は出来上がったようです。

シューマンの他の作品にも、あちらこちらに顔を出す半音動機は、この曲の主題で既に使われています。

【ピアノ動画】シューマン「アベッグ変奏曲」

2016年8月28日に渋谷ラトリエホールで開催しました熊本地震チャリティ・リサイタルで弾いたシューマン様の「アベッグ変奏曲」です。

シューマン様にゆかりのある地の映像と共にお楽しみ頂きました。この時はたくさんのお客様のおかげで、熊本へ寄付金をお送りすることが出来ました事、改めて感謝申し上げます。

余談

ちなみに私が学んだこ「アベッグ変奏曲」の楽譜は、フランスはサラベール社(EDITIONS SALABERT)のコルトー版。

今の日本では、同じものがかなり安く購入できるようですが、私が購入した当時はまだ、完璧に輸入版(取り寄せ状態)でしたので、この薄いピースの楽譜は、えらい高かった事を思い出します。

そしてこの版は、注釈(講釈)やら部分的な練習方法などの記述が多くて有り難いのではありますが、それが楽譜と同じページに記載されているため、かなり場所をとっているの。(故、1ページに楽譜が二段しかないなんていうページも。)

しかーも!わざわざ、その高い楽譜を当時の先生から指定されて買ったのに、注釈が全部フランス語!全っ然わっかんないよ~!って泣きました。そりゃ、今もフランス語は全くわかりませんけれど、イマドキはいくらでも調べようがありますものね。せめて英語の注釈も併記されていたらなぁと呪いました(嘘)。

シューマン「アベッグ変奏曲」についてのまとめ

  • 「アベッグ変奏曲」とは、シューマンが20歳の時に書かれた愛らしい変奏曲だ
  • 主題から各変奏への移り変わりやそれぞれの変奏の性格・背景を想像するとうんと面白くなる!
  • 「アベッグ変奏曲」のアベッグは、シューマンの周りにいたアベッグさんたちの事!?

正味10分程度のこの「アベッグ変奏曲」は、シューマンの記念すべき作品第一号ですが、大変に壮大で素晴らしい作品。シューマンの作品の中で、この曲は「大形式」のものとして、「交響的練習曲」「トッカータ」「ソナタ」「幻想曲」と共に分類されています。あなたもシューマンの「アベッグ変奏曲」に触れてみませんか?

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